
フリーランスのミッドライフクライシス―モヤモヤに対処する6つのポイント
ミッドライフクライシス――「中年の危機」ともいわれるこの言葉が最近やけに身近です。
スマホから顔を上げると一瞬目の焦点が合わなかったり、ホルモンバランスのゆらぎを自覚したり。加齢に伴う身体の変化に直面するにつれ、頭をもたげるのが「自分はいつまで頑張れるのか」という不安。
フリーランスの場合、会社員とは異なり自分が頑張れなかったらその分収入は途絶えます。しかし年を重ねるとこれまでと同じように頑張ることが難しいのも事実です。
独立7年目、44歳の私のなかにもいつしかそんなモヤモヤが芽生え、ここ数か月間は頭の片隅にしぶとく居座っていました。でも、このステージを通過した人はきっと私だけではないはず。
そこでハイスキル独立人材が集まるコミュニティ「Sollective ギルド」で似た経験を持つ人を募集してみました。そして手を挙げてくれた7人との話を終える頃にはモヤモヤがすっかり軽くなっていたのです。
モヤモヤの因数分解で見えた3つの正体
メンバーと話をするにあたって、まずは自分のモヤモヤを少し分解してみました。ミッドライフクライシスの要因や程度、中身は人それぞれですが、私の場合は次の3つが大きいようです。
- 加齢による身体面の変化
💭これまでのようには頑張れない/稼げない不安 - 「できる」仕事を続ける状況
💭マンネリ感の発生、ワクワクの欠如 - AI の進化
💭自分の価値が下がるのではないかという漠然とした恐れ
これらのモヤモヤに対し、メンバーから提示されたのは6つのポイントでした。
①モヤモヤをポジティブに捉え直す
初っ端から出てきたのは、「モヤモヤを解消しない」という斬新な考え方です。
「自分に100%満足するなんて、ちょっと怖い。憂いがあるからこそ考えられるし、一生懸命になれる。危機感が常にないと成長できないと思う。だから乗り越えなくていい」(Nさん、コピーライター)
ポジティブになるにはモヤモヤを解消するしかないと思い込んでいた私にとって、この視点はまさに目から鱗。モヤモヤそのものがいきなりポジティブな存在に変わったのです。
そもそも「将来稼げないかもしれない不安」の根っこにあるのは、ひとりで稼ぐしかない不安定な状況への心細さ。ところがこれに対しても、会社員とフリーランス、起業家という3足の草鞋を履く別のメンバーからまったく新しい視点が出てきました。
「フリーランスとして事業を展開できる状態は、自分にとって安全な選択肢。組織に所属しなくても、いつでもどこでもひとりで稼げるから」(Kさん、マーケター)
ひとりで稼ぐしかないということは、ひとりで稼げるということ。そう捉えると、心細さが心強さに変わりました。
②勝ち残れる分野を特定する
現状と比べて将来をただ憂うのは時間の無駄です。そうわかっていながらも、具体的な打ち手がわからないとただ足踏みしてしまうもの。そんな停滞を抜け出す具体策として挙がったのは、「横に広げる」方法でした。
「ずっと同じような動画コンテンツを作ってきたが、振り返ればサービスとして販売できるメニューが少なすぎた。これ以上縦に積み上げるのは限界があるので、今は横を意識して運用など定量的に価値がはかれる領域に手を広げている」(Nさん、ビデオグラファー)
「テクノロジーの発達で将来的に自分の仕事は意味がなくなると思う。だからこそ、誰よりも長く生き残れるように業種の幅を広げ、肩書を増やしている」(Kさん、マーケター)
また事業領域は変えず、自分が AI よりも優れている価値を洗い出して顧客戦略に生かしている人もいました。
「AI の進化によってコンサルも難しい職業になっている。そのため、自分が AI に勝てる分野や顧客セグメントを洗い出し、そこの案件をそれなりの単価で取るようにしている」(Hさん、コンサルタント)
いずれにしても大事なのは、立ち止まって現在の事業を見つめ直すこと。将来が不安だから今のうちに稼ごうと日々の締め切りを回すのに精いっぱいでしたが、今は時間を取って私なりのアクションプランを考え始めたことで、「ただ憂う」状態を抜け出せた気がします。
③稼がないプロジェクトを作る
私の場合、「やりたいこと」よりも「できること」を軸に事業を始めたのもあり、ともすればやっていることに飽きがちです。もちろん、案件ごとに業界や役割は異なるためある程度の新鮮さはあるものの「よいコンテンツを作る」という大枠は変わりません。
こうしたマンネリ感を、メンバーたちは「儲けを度外視した楽しいプロジェクトを持つ」ことで回避しているようです。
「ライスワークとライフワークを分けている。ライフワークとしては自分の興味があるサービスを作っていて、うまくいったら事業として運営したい」(Kさん、UX デザイナー)
「本業のほかに占い師やキャリアカウンセラーの仕事をしているが、それ単体では稼がないと決めている。とはいえ本業のマーケティングに生かせることも多いため、トータルで収支は取れている」(Mさん、マーケター)
「時間の3割をお金にならない仕事に充てている。本業はコンサルだが、観光大使や就職活動の支援、airbnb のアドバイザーなども手掛けている。気分転換になるし、こうした余白が本業にも役立つ場面も多い」(Hさん、コンサルタント)
話を聞いた7人のうち、儲けを度外視したプロジェクトを持っていた人は5人。「将来が不安だから今のうちに稼ぐモード」に入っていた私は、メンバーの話から自分がいかに近視眼的な考えにとらわれていたかに気づきました。
④達成を意識する
意識を将来から今に戻す仕掛けも効果的なようです。その1つが、小さなゴールを作ってその達成に取り組むこと。それによって、確実に事態を前に進められるだけでなく、達成による自己効力感も得られます。
「モヤモヤを感じたら、その攻略をプロジェクト化し、ゲームのような感覚で小さな目標を作って試していく。そうやって小さな目標を達成しながら今に至っている」(Hさん、コンサルタント)
「自分が目指すところに到達できないと落ち込む。だから『これだけは達成しよう』と絞る。手を広げすぎず、優先順位をつけて行動する」(Kさん、UX デザイナー)
話を聞いて思ったのは、過去の達成にも注目すべきではないかということ。加齢による変化はさておき、時代の変化を乗り越えてここまでやってこられたのは事実です。自分の力を信じることもまた、大切なポイントかもしれません。
⑤今の強みを棚卸しする
組織にいれば先輩や後輩がいたり、ミッドキャリア研修などがあったりと自分の立ち位置を自覚する機会もありそうですが、ひとりの場合はキャリア人生における現在地がどこなのかを意識することがありません。しかしここで一度、今の自分に目を向ける必要がありそうです。
「年齢を重ねたからこその強みを見つけること。心理系のアセスメントは客観的に自分を把握するのに役立つ。最近はメンター的に重宝されることも多く、若い人が頑張れるようにフォローできるのも今の自分ならでは」(Mさん、マーケター)
「昔はもっと気負ってギラギラしていたが、年を取るにつれて肩の力が抜けてきた。インタビューの仕事でも、年を重ねないとできない問いかけがある。実際に取材対象者に『ありがとう』と言ってもらえることも増えた」(Nさん、コピーライター)
「40代後半でそれまでのキャリアを中断して趣味の領域でアルバイトを始めたが、ついていけず、もう無理できないと悟った。抗っても仕方がないと思えるようになり、できることとできないことが明確になって楽になった」(Sさん、マーケター)
考えてみれば、最後に自分の強みについて考えたのはいつだったか、思い出せないくらい昔です。しかしキャリアを積むにつれ、強みが変わるのは当たり前。にもかかわらず、大昔に洗い出した強みでいつまでも勝負しようとしていた私の姿勢にはそもそも無理があったのでしょう。
⑥人と関わり、刺激を得る
私は、人と浅いつながりを築くのが苦手です。何ならミートアップやネットワーキングの類に対して「何かしらの利益を得ようとする下心の集まり」という偏見すら持っていました。
しかし今回で考えが変わりました。もっと早く話せばよかったと思うほどです。モヤモヤを捉え直し、視野の狭さに気づくことができたのも、今回7人と話したからこそ。
実際にメンバーの多くも、人と関わることの重要性を理解し、積極的に行動していました。
「最近、顧問を迎えていろいろ相談するようになった。もともとコミュニティが狭く、知らない人の関わりに対して懐疑的だった。でも一歩半先に行く人と関わることで学びを得られる。そういう接点をもっと作っていきたい」(Nさん、ビデオグラファー)
「人間はリアルで話さないと感情的になりやすく、溜め込みやすいようにできている。だから雑談も含めて話す機会を大事にしている」(Hさん、コンサルタント)
「更年期の真っ最中だが、加齢について話したり情報交換したりすることが役立っている」(Sさん、マーケター)
モヤモヤとは、自らが頭のなかで生み出したもの。それをひとりでこねくり回しても埒が明きません。人と関わり、雑談したり相談したりすることで視界が開け、気持ちが軽くなる。首都圏以外に拠点を置き仕事関係者とほぼ会うことがない私にとって、今回はその効果を実感する機会となりました。
おわりに
ビジネス界で活躍するフリーランスはここ数年で増えてきました。しかしフリーランスがビジネスパーソンとしてのステージをどのように進んでいくかについては情報が少なく、ロールモデルもなかなか見当たらないのが実情です。今回の記事が、フリーランスとしてキャリアを築く皆さんの参考になれば幸いです。
記事で紹介した6つのポイントは、ミッドライフクライシスに限らず、どの年代にも役立つ内容です。モヤモヤの中身によっても響くポイントは異なるでしょう。次にモヤモヤしたときにまたこの記事に戻ってくると、新たな発見があるかもしれません。
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Writer / Yuna Park
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