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フリーランスが被災したら、仕事はどうなる?避難生活を経験したライターの教訓

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宮崎県での震度6弱の地震をきっかけに「南海トラフ地震臨時情報」が初めて発表され、緊張が高まったこの夏。自然災害だけでなく、感染症の蔓延、大規模なシステム障害など、突然仕事を続けられなくなる危機は、誰にでも訪れる可能性があります。

勤務先が対策してくれる会社員とは違い、フリーランスの場合は自分で備えなければなりません。しかし、どうすればいいのかわからない、考えたくもないという人は多いのではないでしょうか。

今年1月に能登半島地震を経験したわたしも、昨年まで予兆を何度も感じながら、いざというときの仕事の継続について深く考えてきませんでした。「まさか起こるまい」とも思っていましたし、具体的な準備をすると「もしも」が現実になってしまう気がして嫌だったのです。

しかし、実際に大地震は起こってしまいました。果たして、仕事はどうなり、仕事への思いはどう変化したのか。いつか非常事態に立ち向かうフリーランスの誰かの助けになればと願って、わたしの体験から得た教訓を綴ります。

災害後は、焦らず段階的に仕事を再開しよう

地震が起こったのは1月1日。お正月休みだったため、締め切りの迫った仕事はありませんでした。そこから元の状態に近づくまで約3か月。仕事の状況とわたしの気持ちは、時系列で大きく動きました。

【被災直後:大災害のショックで普段の判断力は失われる】

地震で自宅が損壊し、夫と子ども2人とで避難所での生活が始まりました。高齢者の多い土地柄もあり、自然と我々世代が避難所を運営する流れに。たまたまこの避難所は停電しなかったこと、避難者が持ち込んだ Wi-Fi ルーターで通信環境が確保できていたことから、この時点では避難所運営をしながらでも仕事にそれほど影響はないだろうと考えていました。1月4日に予定していたオンラインミーティングに出る気でいたくらいです。

今思えば、大きな災害に遭った衝撃から神経が昂って自分のキャパシティの感覚が狂っていました。決して平時どおりに動けるわけではないということを知っておくとよいと思います。

【被災後10日:仕事への焦りが募っても、安全確保が優先】

避難所で数日過ごしたあとは、能登町内の友人宅にお世話になることに。

余震もありなるべくみんなで1部屋に集まっていたため、1人でまとまった時間 PC 作業に集中することはできません。落ち着かない子どもに四六時中話しかけられて考え事もぶつ切りになり、焦りが募ります。

イライラして「いっそ全部投げ出してしまおうか」とすら考えましたが、そもそもまだ家族の安全確保を優先すべき時期。進行中だった仕事について関係者に連絡するなどタスクを小さく分けて確実にこなすようにし、自分を落ち着かせることが大切です。

【被災後1か月:日常生活で時間切れ、無力感も受け止める】

別の友人が所有する空き家を借りて、家族だけで暮らせるようになりました。ただ断水のため、以前なら蛇口さえひねれば当たり前にできていた炊事、洗濯、入浴のために、毎回数時間は外に出なければなりません。学校が再開してからは子どもたちの送迎も加わり、家事と子どものケアにほとんどの時間を取られるように。

大災害のあとは日常生活を営むだけで時間がなくなります。元に近い生活への一歩を踏み出せても、すぐに以前と同じペースで仕事ができるとは思わない方がよいでしょう。

さらにこの時期、瓦礫の山でインフラの復旧もなかなか進まない街を歩いていると、家や水道を修理できるわけでもなく、傷ついた人を治療できるわけでもなく、「わたしが文章ひとつ書いたところで何になるのか」と無力感を抱いていました。

そんななか年末に納品していた記事が公開され、記事を読んだ友人や仕事関係者からの「次も読みたい」「また一緒に仕事をしましょう」というコメントに励まされました。災害復旧の役には立たないかもしれないけれども、わたしに求められるのもまた「書く」ことなのだ、と感じたのです。

先は見えないけれども、いつか必ずまたライターの仕事を再開しよう。前向きな気持ちも芽生えました。

【被災後2か月:生活のルーティンに慣れたら仕事再開のチャンス】

水道の復旧に時間がかかり、生活の状況は4月末までほぼ変わりませんでした。ただ日々のルーティンに慣れてきて、1人で PC に向かう時間も少しずつ長く取れるように。同時に、取引先から仕事の再開を踏まえた連絡をいただきました。

「できる」という根拠はなかったのですが、仕事に前向きになり始めたタイミングでオファーをいただいたのはご縁だと感じました。それに、そろそろ避難生活や災害対応から離れたことに没頭したいとも思い、引き受けると決めました。

【被災後3か月~:仕事再開は慌てず少しずつ!勘はすぐに戻らない】

不思議なことに、1つ目のオファーを受けた途端、まったく別々の取引先から連載の再開と新規案件の依頼が立て続けに舞い込みました。

次の住居への引っ越しや子どもたちの進級・進学も控えていたため仕事は少しずつ…と考えていたものの、実際にオファーを前にすると、急に「これを逃すともう次はないかもしれない」という気持ちが湧いてきます。仕事ができる気がしなかった時期と比べれば進歩的な心境の変化とも言えますが、結局この焦りが決め手となり、どちらも引き受けることに。

あとからわかったのですが、3月という時節柄、取引先の1人は人事異動が決まっており、担当が変わる前にスムーズに連載を再開できるよう、このタイミングで持ちかけてくれていたのです。わたしは「被災して3か月」とばかり考えていましたが、取引先にとっては「年度末」。世の中がどんな時期かという観点を持っていれば、もっと悩まずに受注判断ができたと思います。

とはいえ、やはり災害下での生活で以前より稼働時間が減ったこと、仕事の勘が戻らずスピードに乗れなかったことから、8月まで綱渡りな進行が続いてしまいました。無理に引き受けても、スケジュールが不安定だったり、アウトプットの質が下がったりしてはその後の仕事に響きます。焦りがあっても、再開の仕事は自分で思う以上に抑えめに始めることをおすすめします。

白い服を着て両手でスマホを操作している女性

日常の「つながり」が被災時の救いになる

ここからは、日頃なにげなくやっていて被災時救われたことを紹介します。災害を意識していたわけではありませんでしたが、思わぬ助けになってくれました。

【仕事関係者と SNS でつながっておく】

SNS で仕事関係者とつながっていたおかげで、多くの人にすばやく無事を報告することができました。被災後も、メインで使っていた SNS ひとつに絞って状況をこまめに発信。仕事再開のきっかけとなった3月初めのオファーも、生活の状況や、仕事に対する気持ちの変化を投稿で見て連絡をくれたようです。

被災してしばらくは仕事用に整えた発信を取引先ごとにするのはとても難しいです。体裁は乱れていても、投稿の負担の軽い SNS でありのままの状況を随時関係者全体に発信し続けてよかったと思います。

【取引先の地域を分散させる】

災害に遭って実感したのは、「取引先が被災していない」という心強さでした。

ライター業のほとんどは首都圏、関西、海外など遠く離れた取引先と進めていたため、仕事の中断、引き継ぎ先の手配、再開への調整など、災害のダメージを受けたわたしの状況を優先して、快く寄り添ってもらえてありがたかったです。一方で、取引先も被災した仕事ではこうはいかず、計画をあきらめざるを得ない場面も多くありました。

自分が被災するケースだけでなく、取引先が被災する可能性もあります。できるなら普段から所在地の異なる複数の取引先と仕事ができるとリスクヘッジになると思います。

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日常の動作の隙が災害時に後悔を招く

逆に、普段からやっておけばと後悔したり、避難生活のなかで不安になったりしたこともあります。本当にちょっとした動作でも、災害のときに明暗を分けると感じました。

【クラウドでのデータバックアップ】

仕事に関するデータの大半を PC にローカル保存していたうえ、地震直後に家から脱出したときは、避難経路と逆方向にあった PC を持ち出せず…。あとで傾いた自宅から取り出した PC の電源を入れられるまでは、「データ全部消えたかも」と不安でたまりませんでした。

クラウドに保存しておけば、もし PC を失っても別のデバイスからデータを取り出せます。普段からクラウドにバックアップを取っておくのがよいと思います。

【 PC や貴重な資料は安全な置き場所を確保】

自宅ではダイニングで仕事をしていました。そして電源確保の都合で、ノート PC の保管場所は食洗器と冷蔵庫の間、ガラスのコップの隣!結果的に PC は無事でしたが、周りのものの落下や水濡れで壊れてもおかしくない状況でした。

家の中でも広いスペースが取れるダイニングテーブルで仕事をするフリーランスは多いでしょう。どうせすぐ続きをするし片づけるのが面倒…と近くに置きたくなりますが、キッチンやダイニングスペースは、ほかの部屋よりも食器など壊れやすいものが多く水濡れの危険も高い場所です。特に重要な仕事道具は安全な置き場所を決め、面倒でも都度そこに戻すことが大切です。

また、貴重な資料を入れた本棚の近くには除湿器を置いており、地震の揺れで水浸しになっているのではないかと避難所で絶望的な気持ちになりました。こちらも結果的に無事ではありましたが、紙の資料の近くに除湿器や加湿器、ストーブを置くのは避けたほうがよいと思います。

【スマホやノート PC は常にある程度充電しておく】

地震発生の直前にスマホで動画を見ており、家から脱出したときにはバッテリー残量が18%でした。電波状況が悪くなったのと、県外の友人や親戚から次々と LINE が来たため、残りのバッテリーもどんどんなくなっていきとても心細くなりました

スマホやノート PC が使えないと連絡や情報を得るのに困るのはもちろん、精神的にもつらくなります。いつ充電できない状況になってもよいよう、「バッテリー残量が40%以下になったら必ず充電する」など癖をつけておくのがよいと思います。

【経理事務はこまめにやる】

せっかくクラウド会計サービスを契約していたのに定期的に使わず、いつも確定申告直前にあわてて入力する始末。被災後、壊れた自宅から領収書などの書類を取り出すのに苦労しただけでなく、在宅ワーカーあるある「家事按分」のための水道光熱費の伝票も散逸してなかなか見つからず、普段からこまめにやっておけばよかった…と落ち込みました。

月1回は領収書類の整理をしたり、クラウド会計サービスに入力したりする日を決めておくと、災害に遭ったときも影響が小さくて済むと感じました。

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パソコンに向かって作業をしている人。机の上には紙が乱雑に置かれている

被災後の早い判断がスムーズな仕事再開への素地になる

次は、災害に遭ってから考え、動き出したことです。わかっていればもっと早くに行動できたと思うものもあります。

【仕事を手放すなら覚悟は早く】

被災して10日めごろ、続けていた連載の仕事を手放す決断をしました。避難生活で落ち着いてものを考えられないなか、無理して質の悪いものを出したら、決定的に自信を失いそうな気がしたのです。そして、取引先にピンチヒッターを探してもらうなら早い方がいいと思いました。

手放した仕事を二度と得られない怖さがなかったわけではありません。「がんばればやれるかも」「続けた方がいいんじゃないか」とも迷いました。でも、抱え込んだ挙句に質の悪いものを出すくらいなら、早く手放す方がかける迷惑も小さく済みます。それまでの信頼関係もあり、これっきり仕事が途絶えることはないと思えました

実際、取引先からは「落ち着いたらいつでも連絡して」と温かい言葉をもらい、再開もスムーズに進みました。普段から1つひとつの仕事に誠実に向き合い、しっかり価値を出すこともまた災害対策になりうると感じています。

【Wi-Fi ホームルーターの導入で通信環境を改善】

自宅では固定回線を引いてインターネットを利用していましたが、被災して使えなくなってしまいました。スマホのテザリングでは通信速度や安定性が物足りず、イライラして仕事になりません。そこで、早々に Wi-Fi のホームルーターを契約しました。

ホームルーターは電源さえ取れればどこでも Wi-Fi を利用できるので、仮住まいで固定回線を利用できないなか仕事をするのに向いていました。インターネットがスムーズに使えないだけで滞ってしまう仕事は多いと思います。使い勝手やコストが見合うなら、ホームルーターやモバイルルーターを普段から使っていると、災害時にも役立ちます

【自治体公式 SNS から信憑性の高い情報を得る】

災害に関連して、自営業者への補助金、確定申告の期限延長など、あらゆる組織や団体から大量の発信があります。人から断片的に聞いて、「その話なに?」「知らないとまずい?」と不安になることもよくありました。

そんななか情報を得るのに便利だったのが、自治体の公式 SNS。自治体が一度チェックして流しているのでデマはないだろうと信頼して読むことができ、ここで知ったことが新たに必要な情報を得るきっかけになったこともありました。

お住まいの自治体ですでに公式 SNS がある場合は、フォローしておくとよいかもしれません。

災害時、苦手な作業を先送りすると普段以上にピンチを招く

被災後、やらねばと思いながらもなかなかできなかったことがあります。でも振り返ると、あのタイミングでやるのがいちばんよかった、と反省…。

【避けて通れない経理事務は早く片づける】

1月1日に被災したため、避難生活と例年の確定申告時期が重なっていました。生活のなかで後回しにしてしまいましたが、3月に仕事を本格的に再開する前に確定申告を片づけてしまえばよかったと思います。再開した仕事と並行して苦手な作業を進めるには相当なエネルギーを要するからです。

ただし、災害時には申告期限の延長や雑損控除の特例などの特別な措置が取られる場合があるので、国税庁の発信をこまめにチェックするのがよいでしょう。わたしの場合も期限の延長があり、避難生活真っ最中に確定申告の締め切りに追われずに済んだのはありがたかったです。

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おわりに

災害時には周囲の状況も自分の気持ちもめまぐるしく変わり、振り回されます。

フリーランスは災害時であろうと、仕事の継続・中断・再開の判断から、 PC の電源や Wi-Fi の確保、事務関連情報の取捨選択にいたるまで、すべて自分でしなければなりません。わたしも上に挙げたような災害に向けた準備や心構えをしていれば、これらのさまざま押し寄せる思考の負担をもう少し減らせたのではないかと思います。

願わくは、災害が起こらないのが一番です。でも、もしものときにこれらの情報が誰かのお役に立てば幸いです。

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