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2023.11.29# Trends

女性活躍が進まない?映画『82年生まれ、キム・ジヨン』で考えるその理由と突破口

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「女性活躍」「ジェンダー平等」を掲げる企業や組織が多い一方で、実際にはなかなか進まない現状があります。その理由の1つとして挙がるのが「そもそも女性が出世を望まない」との声。ではなぜ、そうした声が挙がるのでしょうか?

その背景にあるのが、社会で今も前提とされがちな女性の役割への偏見です。そして社会で女性が置かれている立場をよく見てみると、「女性が出世を望まない」理由が自ずと浮かび上がってきます。

「女性の役割」を期待される日常的な場面や、それにより女性が追い込まれていく様子を見事に描き出したのが、映画『82年生まれ、キム・ジヨン』です。今回は同作品を通じて、女性活躍が進まない理由と状況を変えるためにできることを考えてみましょう。

🚨以下はネタバレを含みますので、これから視聴する人はご注意ください。

無自覚な性差別を映す映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』は2016年に韓国で発表された同名小説が原作。日常に潜むジェンダー差別に焦点を当てた同作品では、女性の生きづらさをリアルに描いたことで大きな共感が寄せられ、同国内での累計発行部数は130万部、日本でも23万部にのぼりました。

「女性の役割」の押しつけが生む閉塞感

主人公のジヨンは、幼い頃から学生時代、就職後など、あらゆる場面で「女性の役割」を押しつけられ、それに対する疑問や違和感を自分で抱えるしかない状況に虚しさを感じていました。

結婚と出産を機に退職したジヨンは、妻、母としての役割に追われる日々のなか閉塞感に悩まされます。再就職を試みるも「女性の役割」を前提に否定され、行き場のない虚しさはとうとう行動の異変として表れるのです。

作品では、悪意のない差別や偏見の言葉でジヨンが心をすり減らしていく様子が詳細に描かれています。

女性活躍が進まない理由を映す些細な言動

ここからは3つの場面を通して、身近な会話に潜む無自覚なジェンダー差別や思い込みの例を見てみましょう。

場面1:「子どもは母親が育てないと」

ジヨンが働いていた職場で、理事とチーム長の雑談シーンがあります。理事は男性で、チーム長は女性です。

理事が子どもの話題を振ると、チーム長は自分の子どもについて「自分の母が育てている」と話します。そこで理事が言い放ったのは「母親が育てないとだめ」。チーム長が真剣に反論すると、理事は気まずそうに笑ってごまかします。そしてチーム長はやむをえず、明るく話題を切り替えます。

性役割の前提のなかで女性が働く難しさ

さすがに最近では、この理事のような発言をする人は少ないかもしれません。しかし「育児を主に担当するのは女性」と考える人がまだ多いことは、育児休業の取得率や取得期間の男女差を見ても明らかです。

「育児は女性」を前提とする社会では、多くの場合育児をしない男性に合わせて働き方やキャリアパスが設けられてきました。女性にとってはその基準に合わせて働くだけでも大変なのに、家事や育児も担わなくてはならない状況では、両立に追い詰められるのは目に見えています。大きな労力と責任に、出世への意欲が削がれるのも不思議ではないでしょう。

また理事のような不適切な発言があった際にも、チーム長のように冗談めかして話題を切り替える、状況への配慮という負担までもが生じるのです。

場面2:「女性は育児があるから長期プロジェクトに不向き」

ジヨンは仕事のプロジェクトメンバーに応募するも落選。選ばれたのは男性社員でした。その後上司は、メンバーに選ばなかった理由について、ジヨンの能力は認めるものの「これは長期プロジェクトで、女性は結婚や育児で続けられなくなるから」だと明かします。

男性のマジョリティ特権への無自覚さ

「女性の役割」を理由に選ばれなかったジヨンに対し、この文脈では男性に「結婚や子育てなどのライフイベントが仕事に影響しない」という特権があります。しかし選ばれた男性は単純に能力が評価されたと考え、「男性の特権」があるからとは感じないのではないでしょうか。

自社に機会の不平等はないと思う人もいるかもしれません。しかし上智大学外国語学部英語学科教授の出口真紀子氏は「特権とは自動ドア」のようなものだと説明します*。その自動ドアはマジョリティには開き、多くの場合マイノリティには開きません。そのためマジョリティはドアを意識する必要はありませんが、マイノリティは認識するしかなく、通るにはこじ開けるか運に任せるしかないのです。このシーンは、職場でのマジョリティ特権の例を正面から捉えています。

*参考:ひろげよう人権 クローズアップ「出口 真紀子:マジョリティの特権を可視化する~差別を自分ごととしてとらえるために~」

場面3:「能力がないから脱落した」

主婦として鬱々と過ごしていたジヨンは再就職を決めるも、義母の反対で諦めることに。それを知った前職の先輩が「妻だけが仕事を諦めるなんて不公平だと思わない?」「出産はまだしも育児は夫と分担できる」と言うのに対して、ジヨンは「そう甘くない」「私は夫ほど稼げない」と返します。その後精神科を訪ねたジヨンは、行き詰まるに至った理由を「私が悪い」「能力がないから脱落した」と話すのです。

構造の問題に個人で立ちむかう重圧

女性であることで機会を得られず、性役割の圧力のなかで幸せに生きられないのは、背景にある構造の問題が大きく影響しています。それにもかかわらず、ジヨンが「能力がないから」と自身を責める背景には「枠組みは変わらない、変えられないもの」という悲しい認識が浮かんできます。しかし構造的な問題は個人として立ち向かうにはあまりにも大きく、伴う重圧も計り知れません。

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背景にある不平等への理解から始まる女性活躍

ここまで見てきた3つの場面をどのように感じたでしょうか。映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が見せてくれるのは、意識しなければ気づかない、女性への差別や偏見、そして女性を追い込む言葉の数々です。そして、そうした社会構造の問題があたかも女性だけの問題であり、個人で克服すべき問題かのように思わされる状況までを丁寧に捉えています。

自分が働く組織で女性活躍が進まないと感じるなら、日々の会話や評価方法で見直すべき点はないか振り返ってみましょう。また「機会は平等に用意している」と思っていても、女性から見れば壁があったり、スタートラインが異なったりする場合があるかもしれません。意思決定層が一歩踏み出して、女性を取り巻く社会的不平等を理解し、公平な機会を提供できるよう組織を変えていく必要があるのです。

女性活躍推進はさらなる多様性ある組織作りの第一歩

女性が働きやすく活躍したいと思える環境づくりは、さらなる多様性を促す大切な一歩です。そして多様性が業績向上につながることはすでに知られています。ジェンダーだけでなく、文化、背景、職歴、雇用形態などに多様性のあるチーム作りこそ、変化の激しい時代に成功する鍵となるのです。

小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が辛く逃げ場のない終わり方なのに対し、3年後に制作された映画版の最後では、夫が子育てをしながらジヨンが再就職を遂げる、新たな始まりが描かれます。同作品は日常にある構造的な不平等や偏見を突きつけると同時に「人も社会も変わっていける」と伝えているのではないでしょうか。

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