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2025.03.28# Trends

モリサワの事業企画チームが重視するマインドセットと社外協業のプロトコル

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フォントでおなじみのモリサワの原点は、1924年に創業者が発明した邦文写真植字機です。写真の原理を用いて文字を組むこの印刷技術は、その後日本のグラフィックデザインや出版業界の発展を大きく支えてきました。それから100年以上経ち、時代が印刷からデジタルへと移るなかでも、同社は日本の文字文化を担う企業として第一線を走り続けています。

そんなモリサワの新たな試みが、クラウド型フォントサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」 の展開です。今回はそのプロジェクトを率いるサービス企画部部長の相川晴俊さんにインタビュー。「柔軟に変化し続ける伝統企業」におけるチーム作りのヒントを探ります。

青色の背景に、左側に相川さんの写真。右側に相川さんのプロフィール(2014年に営業として株式会社モリサワに入社。現在は Morisawa Fonts のプロダクトオーナーとして従事。デザインを成長ドライバーとするスタートアップの支援も行っている。趣味は筋トレ。)

最初から完璧を求めない。前例のないことに挑む「Morisawa Fonts」チーム

—まずは Morisawa Fonts プロジェクトチームの取り組みを教えてください。

Morisawa Fonts は豊富なフォントライブラリーをサブスクリプションで提供するサービスです。ユーザー単位で使えるサブスク形式でフォントを提供することで、デバイスに縛られず新書体も利用しやすくなりました。

—デザイン会社だけでなく事業会社にも活用されている点は、モリサワのフィールドの拡大を象徴しているようで興味深いです。

事業会社によるインハウスデザイナー採用が増えたことにより、自社でブランディングやデザインを手掛ける例がここ数年さらに多くなりました。こうした流れのなか、徐々にフォントがサービスをドライブするうえで欠かせない存在として認められるようになり、モリサワも事業会社に対するアプローチを深めていったんです。現在は、スタートアップのブランディング支援にも力を入れています。

—新たな取り組みを進めるうえで、チームではどんなことを重視していますか?

顧客視点で体験を改善するために、しっかり仮説を立ててチャレンジを繰り返すことですね。これを繰り返せば、前例のないことでも意欲的に挑戦できる文化ができあがります。

サービス設計では、完璧なものを最初から求めないことが重要です。今完璧でも、3週間後には完璧じゃない可能性がありますから。だから今ベストなものを出して、お客さまの声を聞いて、改良を重ねるという仕事の進め方を重視しています。

僕らが今作っているのはお客さまの体験です。完璧な体験は最初から作れません。だからこそいきなり100点を狙うのではなく、点数を積み重ねることが大事だと思っています。

手ぶりを交えて話す相川さんを右斜め下から捉えた写真

スキルは実践で身につく。大事なのは実践するためのマインドセット

—メンバーに対して求めることを教えてください。

新規事業かどうかにかかわらず、企画のプロセスで必要なのは「なぜこのサービスは存在しているのか?」をとことん深堀りし、どんなお客さまにどんな価値を提供するのかについて解像度を上げることです。そうしてチームの共通言語という土台を固めて初めて、仮説を立てられる。チームメンバーに求めるのは、その深掘りや言語化の繰り返しを苦にしないマインドセットですね。

—スキルよりもまずマインドセットを重視するということでしょうか?

はい、スキルはあとからついてくるかなと考えています。僕自身、これまでビジネススクールなどに通っていろんなスキルやケーススタディを学んできたのですが、最終的には実践で磨かれる部分も大きいと思うんですね。実践するにはフィールドに出るためのマインドが必要です。だからこそ、まずは共通言語を身につけてもらうことを重視しています。

笑顔で話す相沢さんを斜め上から捉えた写真

—そんなメンバーに対して、相川さんはリーダーとしてどう関わっていますか?

たとえば解像度を上げていくプロセスだと、メンバーと一緒にふせんを使って「こういう体験を作りたい」というのを考えていきます。最初から一緒に考える方がチームの雰囲気もよくなりますから。

その際に心がけているのは「Yes, and」の精神です。どんなアイデアも大事にして、一旦受け入れる。それに対してさらにアイデアを積み上げていくというアプローチです。

とはいえ、議論の場では、意図的に少し引いているときの方が多いですね。話がずれたら元に戻すなど、司会者としての立ち位置を意識しています。

—その姿勢はやはり、メンバーへの信頼があるからこそでしょうか?

実は5年ぐらい前は「自分でやった方が早い」と考えてしまうようなマネージャーでした。当時はマネージャーとして自信がなく、手探りで進めながらメンバーをリードすることにも慣れていませんでした。

それがあるとき、スタンスを変えてみたら仕事の進めやすさが劇的に変わったんです。そこから徐々に信頼関係もできあがりました。

僕の好きな言葉の1つに、「部下は上司を3日で見抜き、上司は部下を3年で理解する」というのがあります。部下にとって直属の上司は1人だからすごくいろいろ見ているのですが、上司には部下が何人もいるのでそこまで意識が向かない。これは肝に銘じています。 

—先ほど広報の方から、相川さんはいろんなステークホルダーの方を調整してまとめるのが上手だと伺いました。

それには秘訣があって、僕は日頃のコミュニケーションを重要視しているんです。それも、対面での。少しでもやり取りした経緯があると、いざ連携するときに声を掛けやすくなります。

Morisawa Fonts の立ち上げ前は頻繁に大阪の本社に出張して、各部門のリーダーを集めてホワイトボードを前によくディスカッションをしていました。今も大阪の本社に行くと、まず挨拶回りから始めます。

横並びで座る品田さん、相川さん、相田さんを斜めから捉えた写真

チームメンバーの品田佑夏さん(左)と広報の相田浩美さん(右)

社外協業成功の秘訣はゴールの明確化&余裕あるスケジュール設計

—外部エキスパートとの協業を始める際は、どんな点を心がけていますか?

どんな規模の協業でも、依頼前にゴールを明確化します。それがなければ、どこを目標に動けばよいのかわからなくなり、迷ってしまいますから。そして協業相手にはそのゴールだけでなくそれを達成したい理由や背景までしっかり伝えます。

たとえば SNS の画像制作を社外デザイナーに委託する場合、画像を見た人がどういう行動に移ったら正解なのか、というゴールを最初に握るんですね。「誰向けなのか」「なぜ作るのか」「どういう行動を取ってもらいたいのか」をしっかり共有することで、達成するためのアプローチ、つまりデザインに落とし込むための建設的な議論が可能になります。

—協業のプロセスで大事にしていることがあれば教えてください。

途中で小さな合意を積み重ねることを心がけています。そうすればイメージする成果物により近づくだけでなく、外部エキスパートにとっての心理的安全性も確保できますから。

僕が言う心理的安全性とは「お互い言いたいことを言い合える状況」です。そのために重要なのは、余裕ですね。人は余裕がないとほかの考えを受け入れられなくなり、沼にはまりがちです。だから余白を持たせたスケジュールを必ず立てておくようにします。

あとは、それぞれの特性を尊重して、パフォーマンスを100%発揮できる環境を作ること。こちらから特定のやり方をお願いしたり、メンバーと同じようなマインドセットを求めたりすることはありません。

たとえば僕自身は対面のコミュニケーションや雑談を大事にしていますが、今一緒に働いている外部エンジニアさんはずっとビデオ会議で OK というタイプです。こちらはそのやり方を信頼しつつ、フェーズごとのゴールを設定して、お互いの宿題をちゃんと消化しながら進めています。

—逆に社外との協業で避けた方がよいことは何でしょうか?

丸投げですね。外部の方に発注者側の意見を引き出す負担を強いることになりますし、成果物に対するトラブルのもとにもなりかねません。

画像制作でも、ゴールをすり合わせるプロセスを飛ばしてただ「画像をお願いします」では、依頼された方は何個もラフ案を作る羽目になります。相手の貴重な時間を奪ってしまう。そこは発注者側が気をつけるべきポイントというか、最低限のマナーレベルと言ってもよいかもしれません。

手振りを交えて話す相川さんを左斜め下から捉えた写真

外部エキスパートから受けた刺激が、組織の成長材料に

—これまで印象に残っている社外協業について教えてください。

あるアートディレクターさんとの協業は、非常に刺激になりました。キックオフの段階ですでに To-do が整理されていて、途中段階でもこまめに認識をすり合わせ、最後のミーティングまでに成果物がきっちりと納品されていたんです。案は出すものの固執することもなく、すぐに方向転換できる強さもある。クライアントワークにおける仕事の進め方、ドキュメントの用意の仕方、プロトタイプの完成度などは見習おうと思いました。

—外部エキスパートからの学びが糧になっている。

フリーランスをはじめ、外部エキスパートの方は、クライアントワークを日々何件もこなしていますよね。そのノウハウは事業会社にはないので、協業を通して非常に学びになりますし、刺激をバシバシ頂いています。業務委託先の人と仕事をして、いいところを吸収し、社内のプロジェクトやチームでの仕事に使わせてもらって、自分の血となり筋肉となる。つまり、社外パートナーとの協業が、組織の成長材料になるんですね。

メンバーが力を十分発揮できる環境、課題を振り返る文化、失敗を許容できる風土、新たなチャレンジを歓迎するような雰囲気を作るうえで、社外パートナーとの連携を通じて刺激を得ることはかなりあると思います。それがひいては事業の成長につながるのではないでしょうか。

モリサワ社屋のロゴの前に立つ、相田さん、相川さん、品田さん

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