インドネシア企業の Asa Ren はなぜ、初の日本採用で完璧な専門人材と出会えたのか
今回の「企業とフリーランスの幸せな協業」では、日本進出の機会を探るインドネシア発のヘルステック企業 Asa Ren と、生命情報科学の博士号を持ち英語・中国語・日本語の3言語に堪能な事業開発フリーランス、アウ ワンピンさんの協業を紹介します。
日本市場への参入を検討するも、国内にコネクションがまったくなかった Asa Ren。機会の有無を見極めるためにはまず日本で活動できる人が必要でしたが、その人材探しが最初の課題でした。というのも、Asa Ren が求める人物像を明らかにしていくと、事業開発スキル、研究知識、語学力と多岐にわたる能力を持つ希少な存在だとわかったからです。
そんな厳しい要件ながら実現した協業について、Asa Ren の創業者兼 CEO のアロイシウス・リャンさんは「とても順調」だと評価し、ワンピンさんは「夢の実現につながるだけでなく学びにもなる」と話します。お互いにまたとない出合いを手にし、協業が成功した背景とは?2人に話を聞きました。
日本進出の機会を探るヘルステックと、日本と世界の架け橋を目指すフリーランスの出合い
ー Asa Ren はゲノムデータ(遺伝学的情報)を総合的なヘルスケアに活用する企業として、日本市場のどこに魅力を感じたのですか?
アロイシウス:日本は世界で第2位のヘルスケア市場です。先進的な研究機関や製薬会社も多く、学べることは大きいと考えました。また臨床ゲノムおよび創薬研究が比較的新しい東南アジアと比べて、日本には実績があるため当社製品に十分な理解を得られるのではないかとも感じました。
とはいえ、私たちに参入の機会があるのか、参入するなら日本でどんな人と協業すべきかなどがわからない状態でした。
ー 当初日本には何のコネクションもなく、今回の採用を通じてゼロから事業開発を始めたと聞きました。
アロイシウス:はい、本当にゼロからのスタートでした。ただ、現地で調査や人脈作りをして動いてくれる人が必要だとはわかっていました。
そこで Sollective に相談し、まず日本の人材や採用状況を教わったんです。当時はまだ求めるスキルが漠然としていたので、1か月ほど Sollective とやりとりを重ねて明確にしていきました。そうして特定したのは、事業開発のスキル、生命情報科学と研究の知識、英語と日本語の語学力を兼ね備えた人物像。改めて、とても希少な存在だとわかりました。
稀なスキルの組み合わせなので、Sollective にとっても候補者探しは容易ではなかったと思います。しかし、その後1か月ほどでワンピンさんと面談の機会をもらいました。
ー ワンピンさんの印象はどうでしたか?
アロイシウス:ワンピンさんは事業開発者でありながら研究者でもあり、世界有数のバイオバンクや研究機関とのつながりを持っています。またイベントや電話を通じた Asa Ren の売り込みにも積極的な姿勢を見せてくれ、ぜひ一緒に働きたいと思いました。
ー インドネシアではフリーランスとの協業は一般的なのでしょうか。
アロイシウス:極めて一般的です。特にデザインや写真などのクリエイティブ関連や事業開発の分野ではそうですね。当社はまだ日本進出の機会があるかを見定めている段階なので、海外支社の設立が決まるまではフリーランスとの協業がよいと考えています。
ー ワンピンさんは Asa Ren のプロジェクトについて知ったとき、どのように感じましたか?
ワンピン:とてもワクワクしました!実は学生時代にゲノム薬理学を研究していた頃、ある夢を持っていたんです。でも目標達成には膨大なリソースと時間が必要で、実現には至りませんでした。
今回のプロジェクトはその夢につながるんです。Asa Ren が成功すれば、私が学生時代から思い描いてきた社会を実現するための一歩になる。ぜひ一緒に働きたいと思いました。
ー まさにぴったりのプロジェクトだったのですね。ワンピンさんは事業開発フリーランスであり研究者でもありますが、まったく別の分野で起業もされています。
ワンピン:私が所属する研究室にはスタートアップを経営している同僚が多く、私自身も起業して価値を提供したいと考えました。そして自分の強みは研究ではないとも感じていたんです。人々との交流やマーケティングが好きだったので、科学とは別の分野で起業しようと。
それで選んだのが、大好きな日本を旅行先として売り出すビジネスです。私は日本が大好きなんです。人や環境、季節や食べ物、温泉も(笑)。日本の大学院で学ぶことにしたのも、それが理由の1つです。
グローバル企業が日本で直面するコミュニケーション課題を、日本在住フリーランスがカバー
ー 実際に一緒に働いてみてどうですか?
アロイシウス:とても順調です。現在は、協業可能性のあるスポンサーや企業、機関に Asa Ren を紹介して協力の可能性を探っています。ワンピンさんは企業への質問やフォローアップを積極的に行い、狙った相手と面会できるよう全力を尽くしてくれています。
ワンピン:事業開発には難題がつきものですが、必要な情報があると Asa Ren さんがすぐに提供してくれるので、私もとても助かっています。また薬理ゲノミクスの知識や、会社経営で身につけたビジネススキルが生かせるのもうれしいです。
ー 日本市場ならではの点や、海外企業として直面する課題など、気づいたことはありますか?
アロイシウス:たとえば、最初の会議はリモートではなく直接会う必要があり、提案書は日本語に翻訳して事前共有しなければならないと知りました。あとコミュニケーションが直接的ではないので、要望の有無はしっかりフォローアップして聞く必要があるとも思います。
ワンピン:そうですね。その点はグローバル化が進むなか、どの国でも当てはまる課題かもしれません。企業、国、文化などが異なる人がともに働くなかで慎重であろうとするあまり、本当に望むことを率直に語りづらい場合もあるかと。
だからこそ、私は背景の異なる相手に対しては常に質問をたくさんするようにしています。相手が本当に望むことがわからないと的確なサービスの提供は難しいので。
企業のビジネスチャンスと、フリーランスの学びの機会がともに増加
ー 一緒に働くなかで予想外に得られた効果はありますか?
アロイシウス:ミーティングの機会が期待以上に得られています。たとえば、初の日本出張ではワンピンさんのおかげで5件の打ち合わせが実現しました。現在も2つの組織との商談が続いているほか、日本で最先端のバイオバンクの1つからノウハウなど知識の共有を受ける知識移転協力について話し合っています。
ワンピン:私の場合、アロイシウスさんと一緒にミーティングに参加する機会を何度も得たことで、スタートアップがどのようにサービスを売り込むのかを直に学べています。
ー 最後に、それぞれ今後の展望をお聞かせください。
アロイシウス:日本の先進的なバイオバンクからの知識移転を実現し、そこから学んだことを私たちの研究に生かしたいです。日本からの協力があれば、現在インドネシア有数の病院グループやさまざまな臨床医と進めているバイオバンクプロジェクトの力強い後押しにもなりますから。また、日本の製薬会社や財団からスポンサーを獲得することも目標の1つです。将来的には、腫瘍学や神経学の研究プロジェクトにも取り組んでいく予定です。
ワンピン:アロイシウスさんが話した目標を実現するために、これから Asa Ren に関心を持つ人たちともっと会っていこうと思います!
私個人としては、今後も Asa Ren のようなアジアのバイオテックスタートアップの日本進出を支援するプロジェクトにもっと参加していきたいです。
ー 本日はありがとうございました!