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2024.10.16# Tips

フリーランス新法で何が変わる?受注側・発注側の具体例を弁護士に聞く

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2024年11月1日に施行される「フリーランス新法(以下、新法)」。下請法が「下請事業者を不公正な取引から守る」ことに主眼を置くのに対して、新法は「フリーランスが業務に安定的に従事することができる環境を整備する」ための法律です。

新法の詳細は公正取引委員会のサイトをはじめ、さまざまなところですでにわかりやすく解説されています。とはいえ、日々の業務が具体的にどう変わるのか疑問に思うフリーランスも多いのではないでしょうか。

そこで今回は、弁護士法人 GVA 法律事務所の箕輪洵弁護士監修のもと、新法で気をつけるべきポイントを解説。また後半では、業務の具体的な場面において「こんなときはどうすれば?」という疑問への回答をまとめました。

フリーランス自身だけでなく、フリーランスに仕事を発注する人も、この機会に新法が自身の業務に及ぼす影響を理解しておきましょう。

🎙箕輪 洵弁護士
弁護士法人 GVA 法律事務所 弁護士 シニアアソシエイト
スタートアップを中心に、上場企業から中小企業まで企業法務に幅広く対応。知的財産法を得意とし、特にメタバース法務、エンターテインメント法務に注力する。https://gvalaw.jp/

新法で注意したい4つのポイント

新法では、「取引の適正化」「就業環境の整備」の2つの場面において、義務や禁止行為が定められています。各項目は次の図のとおりです。

フリーランス新法の「取引の適正化」における2つの義務と7つの禁止行為、「就業環境の整備」における4つの義務を一覧にした表

それぞれの項目の詳細は、公正取引委員会のサイトでわかりやすく解説されいるのでそちらを参照してください。ここでは、新法の内容で特に注意したいポイントを4つ解説します。

2024年11月以降は、取引条件を書面等で明示する義務が発生する

「取引条件の明示」はフリーランスに対して取引条件を書面等で明示することを義務化する項目です。紙で明示する必要はなく、スクリーンショットなどの電磁化された方式も認められています。

この項目は、過去の契約には適用されません。そのため、2024年11月以降に新たに委託した業務に関してのみ、書面等により明示する義務が発生します。たとえば、2024年10月30日に1年間の契約を結んだ場合、書面等により明示する義務を負うのは2025年の11月1日以降となります。もっとも、2024年10月31日より前に基本契約を締結した場合で、2025年11月1日以降に新たに個別契約の締結(発注)を行う場合は、当該個別契約の時点から明示義務が発生します。

合意があっても、納品後61日目以降の支払いは法律違反となる

「期日における報酬支払」は、原則として発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、当該期日までに報酬を支払うことを義務づける項目です。お互いの合意がある場合でも、61日目以降に支払うことは法律違反となるため注意が必要です。

なお、この項目も2024年11月1日以降の契約に関する支払いに適用されます。

保護対象には、個人事業主だけでなくひとり法人も含まれる

新法は個人か法人か、専業か副業かを問わず従業員を雇用していないすべてのフリーランスを対象としています。

ここでいう従業員とは、週20時間以上かつ年31日以上の期間の雇用が見込まれる人を指します。そのため、「アルバイトに週1で8時間働いてもらっている」「2週間だけフルタイムのパートを雇っていた」などの場合は「従業員」には該当せず、新法の対象です。

フリーランスが別のフリーランスに業務を委託する場合も「取引条件の明示」が必要

新法で主に規制対象となる発注者は、従業員を雇っている個人事業主および法人です。間に仲介業者をはさむ場合は、フリーランスと直接契約をしている仲介業者が規制対象です。

ただし、従業員のいない個人事業主や法人が別のフリーランスに業務を委託する場合も、「取引条件の明示」義務は適用されます。フリーランスは新法で守られるだけでなく、規制される側にもなり得ることに気をつけましょう。

仕事の受注、こんな場面ではどうなる?フリーランスの Q&A

ここからは、具体的な場面における疑問を一緒に解決していきましょう。まずは、守られる立場のケースです。

Q.発注者の確認不足によるやり直しは許容範囲?

担当者の OK をもらって進めていたのに、その上司に NG を出されて最初からやり直しに...これは新法の「不当なやり直し」に該当しますか?

箕輪弁護士:不当なやり直しは、フリーランス側に問題がないのにやり直しをさせる行為を指します。担当者ごとに違う指示を出したり、一度 OK を出したものを社内事情を理由に撤回したりするのは、発注者側の責任になるため基本的には「不当なやり直し」に当たると思われます。

Q. 同意した受注金額が相場より著しく低い場合も問題になる?

相場の10分の1ほどの金額で業務を引き受けています。自分が同意した場合も「買いたたき」にあたるのでしょうか?

箕輪弁護士:買いたたきには、4つの判断要素があります。

  • 対価の決定方法
  • (差別的であるかなど)対価の決定内容
  • 通常支払われる対価との乖離状況
  • 原材料等の価格動向

これに基づいて考えると、一般相場と比べてかなり低い価格であっても、フリーランスが自分で価格を申し出た場合は、対価の決定方法が不公正ではないため、買いたたきには該当しにくいです。逆に、発注者が一方的に決めた場合は、買いたたきとみなされる可能性があります。

Q. 受注金額から手数料が引かれて振り込まれるのはおかしい?

事前の説明なしに、請求額から振込手数料が引かれていました。これは新法の「報酬額の減額」に相当しますか?

箕輪弁護士:はい、相当します。これは下請法上の下請代金の減額にあたるとされているので、新法も同様と思われます。合意がないのに手数料が差し引かれていた場合、フリーランスは新法違反と主張できるでしょう。

Q. 提案した企画が採用されず、受注できなかった。これは「受領拒否」?

提案した企画を採用してもらえず受注に至らなかったのですが、提案先の企業はその企画をそのまま別のフリーランスに発注していました。この場合、「受領拒否」を主張することはできますか?

箕輪弁護士:そもそも発注に至らなかった場合は、契約前の状態として新法は適用されないと考えられます。この場合は新法ではなく、契約交渉前に秘密保持契約を結んでおくのがいいと思います。こちらが出したアイデアを外部に伝えないという契約を最初に結ぶことで防ぎましょう。

Q. 時給制でも「中途解除等の事前予告・理由開示義務」を主張できる?

時給制で契約をしています。稼働がない期間が続いた場合、実質的な中途解除として新法の「中途解除等の事前予告・理由開示義務」の違反を主張できますか?

箕輪弁護士:依頼がないことをもって直ちに中途解除であると主張することは難しいと考えられます(継続的契約の解消の可否については新法とは別途議論があるところですが、ここでは割愛します。)。そのため、新法上の義務違反を主張することは難しいと思われます

フリーランス側の対策としては、契約時に月額の最低報酬を決めておく、依頼がない場合に備えて別の手当を盛り込んでおくなどがよいでしょう。こうした稼働時間ベースの契約は、契約時の交渉が重要です。

Q. 海外在住でも新法は適用される?

海外に住みながら、日本の企業からフリーランスとして仕事を受けています。この場合、新法で保護されるのでしょうか?

箕輪弁護士:海外在住のフリーランスの場合は、契約で「法律は日本に準拠する」と明記されていれば適用されます。契約書で決めていない場合はケースバイケースですが、日本国内での事業活動が多い場合は、海外法人でも新法が適用されることが多いでしょう。

フリーランスへの発注、こんな場面はどうなる?発注者の Q&A

続いては、発注者の立場から具体的な適用例を見ていきます。

Q. メールで「取引条件の明示」をしてもよい?

普段、フリーランスにメールで条件を送っています。メールで文面を残していれば問題ありませんか?

箕輪弁護士:メールの本文で明示義務の対象となる条件をすべて明示できれば問題ありませんが、毎回メールで漏れなく記載することは難しいと思います。金額や業務内容は発注ごとに変わるもので、そうした個別の条件を毎回きちんと残すべきというのが新法の趣旨ですので、あらかじめ発注の際のテンプレート(発注書など)を作成しておくのがよいでしょう。発注のたびに契約書を結ぶ必要はありませんが、フリーランスにはこのようなテンプレートによって取引条件を明示するという対応が今後は安全だと思われます。

Q.フリーランスに書面制作を依頼してもよい? 

普段、発注書をフリーランスに作ってもらっています。今後はこちらで作成する必要がありますか?

箕輪弁護士:最終的に取引条件を明示する義務を負うのは発注者側ですが、新法はフリーランスに発注書の作成を手伝ったりしてもらうことを禁止しているわけではないので、今後もフリーランスに依頼することは可能です。ただその場合も、最終的に発注者からフリーランスに発注書を明示する必要があります。また、書面を作るのを忘れていた、必要な項目を記載していなかったなどの場合も、責任を負うのは発注者側です。

Q. 業務と関係のないイベントに誘うのも NG?

一緒に仕事をしているフリーランスを業務に関係のないイベントに誘ったり、自社商品を勧めたりすることがあります。これは「購入・利用強制」や「不当な経済上の利益の提供要請」に当たるのでしょうか?

箕輪弁護士:新法では、たとえば「買わないなら仕事を頼まない」という状況を作って強制的に商品を購入させるなどの行為を禁止しているため、「よかったら来てください」「発売されたらぜひ買ってください」といった軽い声かけ程度であれば問題になる可能性は低いです。ただし、自分では任意での声かけと思っていてもフリーランスにとっては強制されたと感じる場面もあると思われますので、このような勧誘の場面では細心の注意を払うようにしましょう。

Q. 案件の追加に新たな書面は必要?

すでに一緒に仕事をしているフリーランスに、別の仕事をお願いすることになりました。報酬を上乗せする予定ですが、新たに書面が必要ですか?

箕輪弁護士:書面なしで新たに仕事を依頼する場合、たとえ報酬を上乗せしても、書面等による明示がない場合には取引条件の明示義務違反に当たります。そのため、今後は契約書や発注書などで新たに書面を作る必要があります。

Q. 新法の罰則は?

新法を守らなかった場合の罰則について知りたいです。

箕輪弁護士:まず、新法施行後はフリーランスが所轄省庁に違反を申し出ることができます。その内容に応じて調査が行われ、申し出が事実なら発注者に指導が入ります。

それでも変わらないと勧告・命令とレベルがあがっていきます。命令を受けた場合は社名も公表されます。それでも変わらない場合は50万以下の罰金が課されます。

不明点は専門窓口に相談を

第二東京弁護士会が厚生労働省の委託を受けて運営するフリーランス・トラブル110番では、具体的なケースやトラブルについて弁護士に無料で相談できます。今回の Q&A で取り上げたポイント以外にも疑問があるフリーランスの皆さんはぜひ活用してください。

発注側の皆さんは、うっかり法律に違反しないよう、自社の法務部や顧問弁護士に変更点を確認しておきましょう。

発注側・受注側の双方が新法を正しく理解することで、フリーランスが活躍できる環境が整います。それによりますます多くのハイスキル人材がフリーランスとして力を発揮できるようになり、将来的には発注側にとっても大きなメリットとなるはずです。

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