フリーランスの経理 Q&A【法人化編】| 節税効果やタイミングの目安は? Article Image
2024.07.04# Tips

フリーランスの経理 Q&A【法人化編】| 節税効果やタイミングの目安は?

Share:

確定申告経験のあるフリーランスの具体的な疑問に税理士が回答する「フリーランスの経理 Q&A」シリーズ。今回はフリーランスの多くが気になる法人化について、Sollective コミュニティメンバー2人の相談に西浦啓一郎税理士が答えます。

相談者①法人化で節税できるのか知りたい!高所得コンサルタント

川野:今年は1,800万円ほどの売上を見込んでいるのですが、法人化した方が税金面で得なのでしょうか?

西浦:その可能性は十分に考えられます。まずは個人事業主と法人が支払うべきお金を洗い出すと、次のとおりです。

個人事業主が支払う税金でもっとも大きいのは所得税ですが、その税率は所得が上がるにつれて最大45%まで上がります。一方、法人税は最大でも23.2%です。それに法人化すれば経費として認められる範囲が大きいので、課税対象となる所得金額自体を抑えやすくもなります。

もちろん、法人化しても個人の所得税の支払いは必要です。というのも、川野さんは自分の会社からお給料(役員報酬)をもらうことになるからです。ただ、役員報酬の金額は自由に設定できるため、うまく設定すれば個人の所得税と法人税の両方を合わせても、個人事業時代の所得税額よりも抑えることが可能です。

川野:それは大きなメリットですね!逆にデメリットはありますか?ちなみに、来年また正社員に戻ることも視野に入れています。

西浦:デメリットは法人設立や運営にコストがかかる点ですね。そもそも法人は設立するだけで登録免許税などのお金がかかりますし、赤字でも毎年7万円の法人住民税を支払わなくてはいけません。さらに、会計・税務が複雑化するため、税理士や場合によっては社会保険労務士などへの顧問料も発生します。また解散の場合も15万円ほどのコストがかかるため、法人を1年でつぶすとこれらのコストに負けてしまうかもしれません。あとは、デメリットと言えるかはわかりませんが、法人化すると厚生年金と社会健康保険の負担が増えます。

正社員のときには意識していなかったかもしれませんが、厚生年金料と社会健康保険料は会社と個人が半分ずつ払う仕組みになっているんですね。なので、フリーランスが法人化すれば会社負担分と個人負担分の両方を1人で負担することになります。ただし、厚生年金に加入すれば将来の受給額が上がるため、必ずしもデメリットとは言えないのですが。

金銭面で損か得かは役員報酬額の設定次第

西浦:実際に、川野さんの現在の売上と経費率で簡易シミュレーションをしてみたところ、役員報酬を800万円以下に抑えれば、各種税金や社会保険料を考慮しても法人化した方がお得だとわかりました。

川野:役員報酬を100万円にすれば年103万円も節税できるということですね。ただ年収100万円で生活するのは現実的ではないかもしれません。500万円でも難しいかもしれない...。

西浦:そうですね、役員報酬を極端に低く抑える方法はほかに資産やご家族の収入がある場合に限られますね。ただし、先ほども言ったように法人にすれば経費として認められる範囲がぐっと広がるので、その点を考慮して決定するのがよいでしょう。

川野:ちなみに、家族を役員にして役員報酬を支払えば、その分所得を抑えられるとも聞いたことがあります。

西浦:はい、それも節税の選択肢の1つです。ただし、その場合はご家族の方の厚生年金保険料や健康保険料の半分を川野さんの法人が負担することになるほか、その方個人にかかる所得税額が増えます。それらをトータルで見てどちらが得か、という考え方が必要です。

川野:たしかに…。ちなみにこれはあくまでも税金の比較で、さっき言われていた諸費用の増加は考慮されていませんよね?

西浦:おっしゃるとおりです。ここに、法人化に伴って発生するコストを加味して考える必要があります。

川野:税理士の顧問料はだいたいどのくらいでしょうか?

西浦:売上や委託内容によって変動はするものの、記帳などのアドバイスを含めると年間40~50万程度、申告だけ委託する場合は20~30万程度を想定しておけばよいかと思います。

川野:ということは、役員報酬を500~800万円程度にした場合、増加コストを差し引いても金銭的にはお得ですね。ただ設立コストやその手間を考えると、来年正社員になるかどうかを待ってから決めるのがよさそうです。

西浦:そうですね。またその際はご相談ください!

💡関連記事:フリーランスの経理 Q&A【記帳編】| 交際費、節税、減価償却の考え方は?

相談者②:法人化すべき目安を知りたい!副業デザイナー

柳:私は正社員として働いているほかに、副業として360万円程度の収入があります。ただその副業先がフリーランスと直接契約を結べないこと、そして今後事業を拡大したいことなどから、法人化した方がよいのかと悩んでいます。

西浦:まず確認したいのですが、本業の会社では副業 OK なのでしょうか?

柳:はい、副業は認められています。

西浦:それならよかったです。というのも、もし副業がばれたくない場合、法人化はおすすめできないからです。

実は、法人を設立して2か所から給与を得ると、本業の会社の方に通知が行き、それぞれの給与の金額で社会保険料を按分することになるんです。合計給与所得が上がると社会保険の等級も上がるため、本業の会社の負担が増す可能性が考えられます。そのため、副業で法人を設立して問題ないかどうかは大事な確認ポイントです。

柳:法人化しての副業が OK かどうかは再度確認しておく必要があるかもしれません…。

西浦:一旦、法人設立に問題がないという前提で話を進めると、柳さんのケースでは事業所得がほぼゼロの状態なので、そもそも役員報酬を支給する余地もなく、金銭面だけで考えると法人を設立しない方がお得です。所得がゼロでも法人住民税の均等割7万円の負担が新たに発生するうえ、設立コストや税理士費用などを含めると金銭面でのメリットはあまりないでしょう。

柳:実は去年まで賃貸住宅に住んでおり、家賃を家事按分して経費として計上していたため所得を抑えられていたんです。でも今年から持ち家になったため経費率は下がる予定です。

西浦:ご自宅のオーナーはご本人ですか?ご家族でしょうか?

柳:家族です。

西浦:であれば、法人化すればオーナーであるご家族と賃貸契約を結んでオフィス賃料を経費として計上することが可能です。個人事業主の場合は、生計を同一にする人への賃料などは経費として認められないのですが、法人は完全に分けて考えることができるんです。それは1つの法人化のメリットですね。ただし、ご家族に不動産所得が発生するため、その確定申告が新たに必要になったり、住宅ローン控除が適用されなくなったりする可能性もあるので、事前に税理士に相談することをおすすめします。

法人化の目安は「合計所得800万円以上」だけではない

柳:事業収入があとどのくらい増えたら金銭面でのメリットがあるのでしょうか?

西浦:諸々のコストを鑑みると、所得の合計が800万円以上というのが1つの目安と言われています。柳さんの現在の各控除差し引き後の所得は372万円程度なので、副業での事業所得があと400~500万円ほど増えれば金銭面でのメリットが出てくるでしょうか。

柳:あとは先ほど言われた経費の範囲が広がる点など、税金面以外のメリットをどう見るかですね。

西浦:そうですね。ほかにも大手企業と直接契約を結びやすくなるなど営業面でのメリットは大きいでしょう。また、法人化すれば有限責任になるため、法的に個人が事業に責任を負う必要がなくなります。

🚩法人化の目安 ・所得が800万円以上になったとき(または売上高1,000万円以上) ・節税策を検討したいとき(社宅、出張手当、法人保険、慶弔金、退職金等) ・社会的な信用が必要なとき(銀行融資、取引先の要請、人材採用等) ・所得を分散したいとき(マイクロ法人、家族に対する給与支給) ・責任を分離したいとき(有限責任)

覚えておいていただきたいのは、法人化は長期的な目線で考えた方がよいという点です。法人化すれば維持費用だけでなく、解散するにもお金がかかります。長期的なビジネスの展望を描いたうえで、最良の方法を選んでいただければと思います。

柳:大変勉強になりました!

※本文中で紹介した試算は2024年5月時点での簡易的なものであり、実際の税額とは異なる場合があります。法人については、通常の経費以外に、社会保険料の会社負担分のみを計算上加味しています。

Welcome to Sollective! We're a Japanese startup committed to 'proving the real value of freelancing'. Our platform is designed specifically for improving freelance in Japan. We're here not only to support freelancers in finding their perfect career path but also to educate Japanese companies in adopting agile organizations. Want to learn more? Learn more in the links below 🔗

deco