取適法のフリーランスへの影響は?押さえたいポイントと Q&A【弁護士監修】 Article Image
2026.03.16# Tips

取適法のフリーランスへの影響は?押さえたいポイントと Q&A【弁護士監修】

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2026年1月に、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法、取適法)」に生まれ変わりました。

新しい法律では、まず「下請」という上下関係を想起させる言葉を廃止。また適用対象となる事業者と取引の範囲が拡大されたり、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」などを追加したりと、中小受託事業者の利益保護を強化しています。

委託事業者(発注側)に課される義務と禁止行為

4つの義務

  • 発注内容等の明示 ※一部内容追加
  • 取引記録の作成・保存
  • 支払期日の設定
  • 遅延利息の支払い ※一部内容追加

11の禁止行為

  • 受領拒否
  • 代金の支払い遅延 ※一部内容追加
  • 代金の減額
  • 返品
  • 買いたたき
  • 購入・利用の強制
  • 報復措置 ※一部内容追加
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更・やり直し
  • 協議に応じない一方的な代金決定 ※NEW!

(各項目の詳細は政府広報オンラインで確認できます)

取適法で保護される対象には、Sollective 認定プロのように取引先事業の中枢で活躍するフリーランスも含まれます。といっても、すべての取引が対象になるわけではありません。たとえ同じ企業との契約であっても、取引の内容によって適用されるかどうかが変わるのです。

この記事では弁護士法人 GVA 法律事務所の箕輪洵弁護士監修のもと、フリーランスが知っておきたい取適法のポイントを3点解説します。後半ではよくある疑問に対する箕輪弁護士の回答もまとめました。

なお、この記事における「フリーランス」は、個人事業主および資本金が1,000万円以下のひとり法人を想定しています。

左側に、腕を組みスーツ姿の箕輪弁護士の写真。右側に「箕輪洵弁護士、弁護士法人GVA法律事務所、弁護士 シニアアソシエイト」に続き、プロフィール文:スタートアップから上場企業までの企業法務に対応し、知的財産法を得意とし、メタバース法務やエンターテインメント法務にも注力している。

取適法で保護されるのは委託事業者の「売り物」に関わる業務のみ

まず理解したいのが、取適法の対象です。取適法で保護されるのは、原則として発注側が対価を得る商品やサービスの作成にかかわる取引のみです。前身の下請法では主に「自社が顧客に対して提供する業務(役務)を下請けに出す場合」を対象としており、取適法でもその前提は変わっていません。

そのため、同じ企業が同じデザイナーに発注する場合でも、「何をデザインするか」によって適用可否が分かれる可能性があります。たとえば、フリマアプリを展開する A 社がデザインやコピーライティング業務をフリーランスに発注する場合は、その業務がアプリの制作にかかわる範囲が取適法の適用対象になります。

これに対し、A 社が自社のマーケティング、PR、人事、営業、経営コンサルティングなどをフリーランスに委託しても、その取引は商品やサービスの作成に関与するものではないため、原則として取適法の適用対象とはなりません。

例)フリマアプリを展開する A 社がフリーランスと協業する場合

対象の可能性が高い

  • アプリの UI/UX デザイン
  • アプリの開発やプロジェクトマネジメント
  • アプリのコンテンツライティング

対象外の可能性が高い

  • ウェブサイトや販促物のデザインやコピーライティング
  • マーケティング、PR、人事、営業
  • 経営に関するコンサルティング

ただし、たとえ取適法の適用対象外であっても、フリーランスが関わる取引である以上はフリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の対象です。フリーランス保護法で定められている2つの義務と7つの禁止行為は取適法にも概ね含まれており、多くの部分で共通しています。フリーランスは基本的にフリーランス保護法で守られ、条件を満たす場合にのみ取適法の適用対象になると理解するとよいでしょう。

💡関連記事:フリーランス新法で何が変わる?受注側・発注側の具体例を弁護士に聞く

従業員数が100人以上の企業との取引も対象に

法改正により、取適法では適用対象となる取引当事者の範囲が広がっています。発注側の事業規模の要件として、前身の下請法では資本金のみだったところ、取適法では従業員数が追加されました。発注側の人数基準は取引内容によって2パターンに分かれます。

白背景のスライドで、タイトルは「取適法の適用基準に『従業員数』が追加」。下に2つの説明ボックスが並ぶ。左のボックスはパソコンのアイコン付きで「プログラム作成や情報処理など」。資本金1,000万円超または常時使用する従業員300人超の企業が対象と説明。右のボックスはデザインと電球のアイコン付きで「左記以外の情報成果物作成委託・役務提供」。資本金1,000万円超または従業員100人超の企業が対象と説明されている。

先ほどの A 社の資本金が500万円、従業員が150人としましょう。この場合、フリーランスのデザイナーにアプリの UI/UX のデザインを委託する取引は取適法の適用対象となる一方で、フリーランスのエンジニアにアプリの開発(プログラム作成)を委託する取引は取適法の対象外です。なお、資本金が1,000万円を超える企業の場合は、従業員数にかかわらずいずれの場合でも取適法を順守する義務が生じます。

白背景のスライドで、タイトルは「CASE A社の資本金が500万円、従業員が150人の場合」。下に2つのケース説明ボックスが並ぶ。左はパソコンのアイコン付きで「アプリの開発(プログラム作成)」で、人数・資本金基準を満たさないため取適法の「対象外」と表示。右はデザインアイコン付きで「アプリのUI/UXデザイン」で、従業員基準を満たすため「対象」と表示。下部には、資本金が1,000万円を超える企業ではいずれも適用対象になるという注記がある。

フリーランスの皆さんは、まず今抱えている案件が取適法の対象になるかどうかを、「受注内容」と「企業規模」の2つの観点から確認しましょう。

契約の途中でも、企業は金額見直しの協議に応じる義務がある

取適法で追加された禁止行為のなかで、フリーランスにとってもっとも影響の大きいと思われるものが「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」です。この背景には、受注側に労務費や原材料費などコストの急騰といった事情が生じた際に、代金について実効的な協議が行われるようにする意図があります。

先ほどの A 社の例で、フリーランスのデザイナーがアプリの UI/UX デザインに使用するツールの利用料金やインターネット料金、電気代の値上げを理由に報酬の見直しを求めた場合、発注側である A 社は必ず協議に応じなければなりません。ここでいう協議とは、実効的な説明を交わす機会を設けること。企業側は値上げの要望を受け取って検討し、要求に応えられない場合はその判断に至った背景事情を説明する必要があります。

このプロセスをきちんと踏めば、最終的に値上げを拒否する結果であっても違反とはみなされません。ただし、その金額が取適法およびフリーランス保護法が定める「買いたたきの禁止」に該当すると考えられる場合は、違反となる可能性があります。

また、一度金額に合意した場合でも、相応の理由があれば双方ともにいつでも代金の見直しを求めることができます。企業側が「一度合意した契約の途中だから」という理由で協議に応じなければ、取適法違反と見なされるでしょう。

電気代の値上げは金額見直しの根拠になる?フリーランスの取適法 Q&A

ここからはフリーランスの疑問に対する箕輪弁護士の回答を見ていきましょう。

Q. 海外在住で、現在はフリーランスとして日本国内の企業の仕事を受けています。この場合、取適法やフリーランス法は適用されますか?

取引が国内で行われるのであれば、日本の法律が適用される前提で進めるのが適切です。支払いを受ける銀行口座が海外にある場合でも、日本国内の企業のために従事する仕事であれば、取適法やフリーランス法が適用される可能性は高いでしょう。

Q. 日本に住んでいますが、取引先のほとんどが海外企業です。取適法やフリーランス法の保護対象になりますか?

取適法には明文の規定はなく、適用外とは言い切れません。不安な場合は、海外企業の取引先であっても、取適法やフリーランス法で定められている支払い条件や内容の明示を契約書に反映するよう交渉するとよいでしょう。

Q. 電気代やツールの利用料など、フリーランス事業そのものの運営コストが上がっています。各案件に紐づくコストではないものの、金額見直しを求める根拠になりますか?

直接の原材料コストでなくとも、電気代やオフィスの賃料、メッセージツールや AI サービスなど業務に不可欠なツールの利用料といった間接コストの値上がり分も、代金の見直しを求める理由になりえます。そのため、申し入れを受けた企業は協議に応じなければなりません。

Q. 支払期日を過ぎても代金が支払われません。契約書には遅延利息などの定めがないのですが、遅延利息を求めることはできますか?

契約書に遅延利息について明記されていなくても、支払い期日を過ぎた場合は民法に基づいて遅延損害金を請求できます。現在の法定利息は年3%であり、契約で定めた期日を1日でも過ぎれば法的に請求権が発生します。ただし、実務上はこうした法律を持ち出しつつも、元の金額を早く支払ってもらうことを優先し、元金を早期に支払ってもらえる場合には遅延損害金まで請求せず円満な解決を図るケースも多いようです。

Q. 支払期日から60日が過ぎましたが、先方はまだ支払ってくれません。次に取るべきステップを教えてください。

給付を受領した日から60日を過ぎた場合は、フリーランス保護法違反(取適法適用対象の場合は、取適法にも違反)となるため、公正取引委員会や中小企業庁への通報も視野に入れて支払いを促しましょう。最終手段として、公正取引委員会の窓口に相談すれば、調査を経て指導・助言や勧告などが行われる可能性があります。

Q. すでに終了したプロジェクトで、委託料を支払ってもらったものの支払い遅延がありました。さかのぼって遅延利息を請求することはできますか?

支払い完了時に、プロジェクトに関する事項はすべて解決済みといった内容に合意している場合は、遅延利息の請求権を放棄したとみなされる可能性があります。このような合意をしていない場合は、消滅時効にかかるといった事情がない限り、法的には請求することが可能です。

契約内容や取引先の対応に不安があれば専門窓口に相談を

金額見直しの協議に応じてもらえない、遅延利息が支払われないなど取適法に関する困りごとがあれば、公正取引委員会の窓口に相談しましょう。また、第二東京弁護士会が厚生労働省の委託を受けて運営するフリーランス・トラブル110番では、弁護士に無料で相談できます。

フリーランスが企業から頼れるパートナーとして見なされる社会を作るには、フリーランス側から適正な取引を働きかける姿勢も重要です。これを機に、1つひとつの取引に対して今までよりも少し意識を高めてみましょう。

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