どうせ悩むのなら好きな道へ―40代で独立した PR のプロがフリーランスで輝く理由
働く女性が増えたとはいえ、ロールモデル不足が叫ばれるのは相変わらず。歳を重ねると、今のキャリアの先にある可能性を感じられず、とにかく「安全」な道を進もうと考える人も少なくないでしょう。
しかし、どんな選択をしても不安はつきもの。「だったら楽しい道を選べばいい」と語るのは、社会人25年目にしてフリーランスとして独立した畑澤幸子さんです。
40代での独立に不安はなかったという畑澤さん。とはいえ、独立直後は職種や自身の専門性ならではの難しさに悩む日々もありました。今回はその道のりをたどりつつ、実績や経験を重ねたからこその強さに迫ります。
多様性あるラグジュアリー業界で得た、年齢やジェンダーにとらわれない価値観
ーーフリーランスになる前の経歴を教えてください。
実は最初にマーケティング系の職に就いたのは通信機器の会社でした。理系出身なので、IT や機械などを扱う分野の方が行きやすいだろうと。配属されたのは新規事業部で、ビュッフェのように自分の器にあれもこれも入れているうちにできることが広がっていった感じです。今もそうですが、仕事の幅を広げる機会に No と言ったことはないですね。私は飽きっぽいところがあるので、いろいろできるのはむしろ好きでした。
その後転職して外資系製造企業で5年弱マーケットコミュニケーションを担当しました。そして退職してしばらく経った頃、登録していたスカウトサービスから突然、ラグジュアリーブランドの PR のポジションを紹介されたんです。それまでブランドの PR なんて考えたこともなかったので、驚きました。育児休暇スタッフの代理で派遣社員という形態でしたが、新たな挑戦なので正社員でなくてもまあいいかと。雇用形態よりも新しい世界を見てみたいという好奇心の方が大きかったですね。
それからは芋づる式にほかのラグジュアリーブランドから声がかかり、複数社で正社員の PR として働きました。その後40代でブランディングコンサルティング企業を経て PR エージェンシーに移り、クライアントワークを経験後に独立したという流れです。
ーー会社員として長く働いたのち、40代での独立に不安はありませんでしたか?
それがなかったんです。というのも、ラグジュアリー業界にいるときに、いろんな意味で価値観が大きく変わったからです。
ラグジュアリーやファッション業界では、ずっと前からジェンダーの多様性が包摂されています。働き方や評価体系が男性基準で成り立っているのではなく、女性も女性のまま働くことができたんです。国内の他業界を経験した身としては、「こういう世界があったんだ!」という思いでした。
それ以降、男性社会に合わせることはなくなりました。だから年齢やジェンダーによる制限を私自身感じていません。不安を感じなかったのはそんな理由からでしょうか。
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あらゆる企業に好かれる必要はない。自分軸のルール作りで開けた道
ーー独立の動機を教えてください。
2社のエージェンシーに合計6年間務める間に、会社員でいる限りいくら大きなプロジェクトを手がけても収入は変わらず負荷や制限が増える一方だと感じるようになりました。そんな状態に陥るのは、仕事の軸が自分ではなく会社にあるから。そこで仕事を自分軸に変えることで、プロジェクトの大きさに比例した収入ややりがいを得たいと考えたんです。
ーー大手企業からフリーランスへの転向でしたが、どんな点に難しさを感じましたか?
まず PR という職種柄、作品など目に見えるポートフォリオがないため実績を伝えづらいという難しさがあります。そのうえ、企業の秘密やブランドイメージにかかわるため経歴や成果を公開できないことが多く、具体性を持って自分のプレゼンテーションができないもどかしさがありました。
また、私が得意としてきた ESG コミュニケーションやサステナビリティ、レピュテーションマネジメントなどは、大企業からのニーズが高く、フリーランスが入りづらい分野です。そのため、独立したて頃は来た仕事であれば何でも引き受けようかと考えたこともありました。「フリーランスになったんだから、柔軟に考えなきゃ」とも。
ーーその難しさをどのように乗り越えたのでしょうか?
まだ模索が続く日々ではありますが、そんななかでも1つ自分の拠りどころとなったのは、独立の動機である「自分軸で働きたい」という思いでした。それで、「悩まないためのルール」を作ったんです。
まず決めたのは、信頼できるサービスや人、企業とだけ付き合うこと。マッチングサービスにもいくつか登録していたのですが、ソレクティブのように職業紹介免許を有しているところだけを残して撤退しました。今は信頼できる相手にのみ、企業名を明かさないかたちでこれまでの実績をお伝えしています。
あとは、自分の価値を認めてくれる企業とだけ仕事をすること。こちらの提案に耳を貸さず、「とにかくメディアに売り込んでこい」という企業の案件はお断りしています。それよりも、私の経歴や、ESG やサステナビリティに強いというマイナー性をおもしろがってくれる企業さんと仕事をしたいですね。
考えてみればこれはブランディングの考え方と同じなんですよね。自分という文化を表に出すことで、支持してくれる人が絞られるんです。世の中の企業すべてに好かれる必要はありませんから。
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ミドル世代以降の活躍は、強みに加えて「頼る姿勢」も不可欠
ーーフリーランスになってから、もっとも手応えを感じたプロジェクトについて教えてください。
ある企業さんとの仕事で、アートと企業ブランドを融合するプロジェクトを企画・推進しています。PR やブランディングの分野で、難しい要求をこなして高い評価をいただくことは当然ですが、今回はそれをきっかけに協業が発展し、ほかの分野での仕事もいただけることになりました。
仕事に対する姿勢と知識量が評価されてよりよい条件でビジネスの幅を広げられた点、また信頼関係を構築できた点で、私が定義する成功に近づいたと言えます。
ーー今後独立を考える人や、この先のキャリアに不安を抱える下の世代に伝えたいことがあればお願いします。
うまく人に頼ることですね。歳を重ねると「頼られること」に慣れている一方で、頼ることをためらいがちです。でも、私がこの歳で独立してなんとかやっているのは、わからないことを周りにどんどん聞いているから。フリーランスの先輩たちはずっと年下の場合もありますが、私は躊躇なく Sollective のコミュニティなどで質問しています。
あとは歳を取れば人生経験の分、周りの人や状況を見る目や、知恵、そして色々な立場の人とネットワークを構築できる力はついているはず。そうした面があれば、ほかのマイナス面、たとえば体力の減退とかフットワークの重さなどと相殺できるかもしれません。
私は仕事のことでは絶えず何かしらに悩んでいますが、会社員を続けていてもやはり何かしらに悩んでいたと思います。どんな立場でも悩みが思い浮かぶのなら、好きな方を取ればよいのではないでしょうか。
ーー本日はありがとうございました! 💡関連記事:フリーランスに向いている人の特徴は?副業&独立のための6つの適性