法人化前に知っておきたい!設立と雇用の基礎知識
事業拡大のために、法人化を考えるフリーランスは少なくありません。
しかし、初めての法人化は何から始めればよいかわからないもの。今回は、そんな不安を抱えるフリーランス(個人事業主)のために、法人化する前に知っておくべき基礎知識やスムーズに法人化するためのコツを紹介します。
法人化を決めるポイントは「税」と「継続性」
法人化にあたって最初に知っておくべきは、個人事業主との違いです。
さまざまな違いがあるなかで、もっとも大きな違いは「税制度」です。
所得が増えるにつれ税率が上がる個人事業主に対し、法人の場合は二段階税率です。そのため、年間で売上が1,000万または利益800万以上なら、個人事業主より法人の方が税金面で有利だとされています。
ただし、法人は一度設立すると簡単には廃業できません。法人化する場合は「1,000万円の売上または800万円の利益をこの先も出し続けられるか」という継続面の検討も必要です。
継続できるかわからない場合は、数年先など想像できる範囲でまずは考えてみましょう。また「法人化したからには目標の売上・利益を達成し続ける」という覚悟が持てるかもひとつの目安になるでしょう。
💡関連記事:フリーランスの経理 Q&A【法人化編】| 節税効果やタイミングの目安は?
法人化までの8ステップ
1.法人形態を決める
法人化すると決めたら、次は法人形態を決定します。
法人には、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4つの形態があります。このうち、フリーランスの選択肢になりやすいのは株式会社と合同会社の2つです。
おおまかに、大規模な運営に向いており設立費用が高いのが株式会社、少人数の運営に向いており設立費用が抑えられるのが合同会社です。会社を大きくする予定があれば株式会社、現状維持する予定なら合同会社が最適でしょう。
法人形態はあとからでも変更できますが、費用が発生します。形態の決定は「何のために法人化するのか」を見直すいい機会でもあるので、設立前に決めるようにしましょう。
2. 社名を決める
法人形態を決めたら、次は社名(商号)を決めます。
社名を決めるときは、競合他社と被っていないかに注意しましょう。既存の社名は『国税庁法人番号公表サイト』で調べることができます。
また、会社のホームページを作成する予定がある場合は、検索で上位に表示されやすい名前かどうかも調べておきましょう。検索したときに同名のサービスや地名などが出てくる場合は、避けるのがベターです。
3. 資本金の額を決める
資本金とは、会社の元手となる資金のこと。金額は自由に設定できますが、初期費用と3〜6か月分の運転資金の合計額にするのが一般的です。株式会社は100万円から、合同会社は50万円からが多いとされます。
資本金は大きい方が社会的信用が得やすいですが、その分、手続き費用なども高額になります。自分が現時点で準備できる金額を上限として、むりのない範囲で設定するのがおすすめです。
4. 法人の所在地を決める
続いて、法人の所在地を決めます。これは、在宅フリーランスが法人化する際に壁になりやすいポイントでもあります。
よくある手法は、自宅を法人の所在地にするケースです。手軽で費用は抑えられますが、自宅の住所が『国税庁法人番号公表サイト』などで公開される点に注意しましょう。
また、自宅が賃貸の場合は、契約で法人利用を禁止されていないかどうかも確認が必要です。さらに、自宅の引っ越しに伴って法人の所在地が変わることになるため、そのたびに変更手数料が発生します。
上記のトラブルを避けたい場合、バーチャルオフィスを借りるのもひとつです。月々の費用が発生しますが、オフィススペースをレンタルするより安価ですむ場合がほとんどです。自身の状況に合わせて、柔軟に選択肢を検討しましょう。
5. 取引先に報告する
法人化の必要事項を決めたら、本格的な手続きに入る前に取引先に一報を入れるのがおすすめです。
取引先から見た場合、実態は今までと変わらなくても、書面上は「新しい会社と契約を結ぶ」ことになります。先方で取引先の新規登録などの作業が発生する可能性を考えて、「法人化する予定があること」「目標の設立日」を早めに伝えておくとよいでしょう。
6. 定款を作成する
定款とは、会社の憲法にあたるものです。法律で記載すべき内容や形式が定められており、それに従って作成する必要があります。必要な要素は以下のとおりです。
定款は自身で作成できますが、株式会社の場合は記載事項が多いため、専門家に依頼するのがおすすめです。また、株式会社はこのタイミングで公証人役場での定款の認証が必要です。自分で作成する場合は忘れないようにしましょう。
7. 資本金を払い込む
定款ができたら、資本金を発起人の口座に振り込みます。自分ひとりの会社を設立する場合は、自分で自分の口座にお金を振り込むことになります。
このとき、記録を残すために「入金」ではなく「振込」が必要です。振込が完了したら以下の4点がわかる書類を必ず手元に保管しておきましょう。書類提出の際に必要になることがあります。
- 払込先金融機関名
- 口座名義人名
- 振込日
- 振込金額
8. 必要書類を提出する
法人化の最後のステップは書類の提出です。
開業届を出すのみの個人事業主に比べ、法人化の場合は提出先が多岐にわたります。以下の表をもとに、ヌケモレがないようチェックをしましょう。
提出した書類は、すべてコピーを取っておくのがおすすめです。設立後に控えの提出を求められたり、再確認が必要になったりする場合があります。また、こうした書類作業は想像以上に煩雑なため、不備を防ぐためにも専門家に依頼することも視野にいれましょう。
雇用する前に知っておきたい労働契約のポイント
法人化後、メンバーの増員を考えている人もいるでしょう。
メンバーの形態には株主(株式会社のみ)、取締役、そして従業員や外部スタッフという3つのパターンがあります。ここでは、最も想定される従業員・外部スタッフの雇用で注意したい点を紹介します。
契約の形態は3種類
従業員や外部スタッフの形態は、正社員、派遣社員、フリーランス、アルバイトなど、形態は多岐にわたります。
従業員や外部スタッフとは、労働契約の締結が必要です。労働契約には、労働に対して賃金を払う『労働・雇用契約』、成果物への報酬を払う『請負契約』、作業遂行に対して報酬を払う『委任契約』の3種類があります。
このうち、労働・雇用契約は労働者に指示・命令を行える代わりに、社会保険料の支払い義務や厳しい解雇規制があります。請負契約や委任契約の場合は、労働者の自由を認める代わりに、社会保険料の支払い義務はなく、解雇についても原則契約書の内容に従います。
💡関連記事:フリーランスに契約書が必要な理由と確認ポイントを一挙解説
労働実態によっては契約内容が違法になる場合も
ただし、気をつけないといけないのは契約は実態に応じて適用されることです。例として、以下の3つの事例が法的に問題がないかどうか考えてみましょう。
<ケース1>
委任契約のスタッフが、社長の指示のもとオフィスで平日の午前10時から18時まで働いている。勤務時間に関係なく、月額で一定の報酬を支払っている。
<ケース2>
請負契約のスタッフが、半年間の契約で週5日フルタイムの営業職を務めている。委任契約のため社会保険料は支払っていない。
<ケース3>
学生インターンが従業員と同等の企画業務を行っている。3か月〜半年の契約で、従業員と同じ出退勤時間を守っている。本人から同意書をもらい、インターンシップ中は無給としている。
上記の3つのケースは、いずれも法的に問題がある可能性が高いです。
労働の実態は総合的に判断され、特に雇用主の指揮命令下にあるかどうかがポイントです。「業務への拒否権がない」「勤怠時間を守らせる」といった状態は指揮命令下にあると見なされて、社会保険料の支払いを命じられたり、解雇規制の対象になったりする場合があります。
従業員や外部スタッフを雇用する場合は、こうした労働法にも留意するようにしましょう。
まとめ
フリーランスの法人化や、それに伴うメンバーの雇用にはさまざまな専門知識が必要です。時間がかかる手続きも多く、それまでの自由なフリーランスの働き方に比べて負担が増える場合もあります。
しかし、事業の拡大や売上の増加はフリーランスにとってうれしいもの。正しい知識を身につけて、怖がらずに最初の一歩を踏み出してみましょう。
※本記事は、2024年6月25日に Sollective が東京開業ワンストップセンターおよび東京圏雇用労働相談センターとともに開催したイベントの内容をもとに株式会社ソレクティブが制作しました。
Contributor / Isao Ohashi(中小企業診断士)
Contributor / Takeshi Tada(弁護士)
Contributor / Rika Hayashi(特定社会保険労務士)
Writer / Maishilo
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Editor / Yuna Park
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