Netflix『プリント・ザ・レジェンド』に見る事業拡大時の課題と柔軟な組織作り Article Image
2023.06.12# トレンド

Netflix『プリント・ザ・レジェンド』に見る事業拡大時の課題と柔軟な組織作り

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今回はスタートアップや新規事業に携わる人なら観ておきたいドキュメンタリー映画、Netflix『プリント・ザ・レジェンド』をご紹介。

作品を通して成長期の組織が直面しがちな問題と、それを避けるためにできることを考えていきます。

スタートアップの熱狂と苦難を映した Netflix『プリント・ザ・レジェンド』

Netflix『プリント・ザ・レジェンド』(2014)は、3D プリンタメーカーとして急成長を遂げるスタートアップ、MakerBot(メーカーボット)と Formlabs(フォームラブズ)の熱狂と苦難に満ちた数年間を追いかけた作品です。

登場する企業:MakerBot:卓上 3D プリンタスタートアップの先駆者。熱溶解積層法を採用、当初はオープンソースを掲げる。 ・Formlabs:卓上 3D プリンタ の後発スタートアップ。より高精度な光造形方式を採用。 ・3D Systems:企業向けに事業を進めてきた 3D プリント界の大企業。のちに卓上 3D プリンタ市場にも参入。

家庭用 3D プリンタで革新を起こす MakerBot

作品公開時点で 3D プリント技術はすでに30年以上使われており、3D Systems(スリーディー・システムズ)といった大企業がプリンタ製造を担っていました。しかし、そのプリンタは航空会社などもっぱら企業向け。家庭用の 3D プリンタはありませんでした。

そこで革新をもたらしたのが MakerBot です。同社は家庭で使える卓上 3D プリンタを販売し、大きな話題を呼びます。

同社が注目されたもう1つの理由がオープンソースへのこだわりです。業界発展のため情報を共有する姿勢は、オープンソースコミュニティを中心に大きな支持と注目を集めます。

高精度な Formlabs、大企業の 3D Systems 参入で競争が激化

次いで卓上 3D プリンタ業界に参入したのが Formlabs です。

同社が MakerBot と異なるのは、3D プリントの方法です。Formlabs は、MakerBot が用いる熱溶解積層法よりも高精度な光造形方式を採用。その卓上 3D プリンタ「Form 1」はクラウドファンディングで大きな注目を集め、2,000台以上を販売、300万ドル近くを調達しました。

こうして MakerBot と Formlabs が急成長を遂げるなか、とうとう大手の 3D Systems が卓上 3D プリンタ市場に参入。競争は激化していきます。

同作品は若々しい創業期から、拡大につれ両社が変化していく様子、またスタートアップで働く喜びと苦しみを鮮やかに映し出しています。

事業拡大を左右する人材確保とコミュニケーション

Netflix『プリント・ザ・レジェンド』はスタートアップが抱えがちなさまざまな問題も捉えています。その中心には事業拡大で組織をどう変化させるかという課題があるようです。

ここからは作品内の例から、事業拡大時に起こりがちな問題を見ていきましょう。

事業拡大時の問題1:採用後にミスマッチだとわかる

まず Formlabs の例で見えてくるのは、人材拡充時に採用でミスマッチが起きてしまう問題です。

Formlabs では事業拡大に伴い組織も大きくなりますが、人員が増えてもプロジェクトは予定どおり進みません。その原因として、求める人材を採用できていない状況があるとわかります。

会社が小規模だった頃は、仲間を通して必要な人材が見つかり、互いの得意分野も明らかなため適材適所が実現できていました。しかし組織が大きくなり、同じ方法ではうまくいかない現実に直面したのです。

採用の問題が表面化するなか「Form 1」の出荷は半年以上遅れ、サイトには出資者からの批判が殺到してしまいます。

事業拡大時の問題2:コミュニケーション不足で足並みが揃わない

次に MakerBot の例が示すのが、組織拡大時のコミュニケーションの問題です。

作品の中盤で MakerBot は300人を抱える規模に成長。広々としたオフィスに移り物理的に快適な環境が整う一方で、自由に発言できず息苦しそうな従業員の様子が映し出されます。

その背景には、事業拡大で変わった企業文化への従業員の戸惑いがありました。同社はこだわりだったはずのオープンソースを止めてクローズドへ移行。さらに主要メンバーが次々と解雇され、経営方針の変更で職場の雰囲気は一変したのです。インタビューを受ける MakerBot 従業員が「どこまで話して大丈夫か」と話す表情には不安がにじみます。

経営陣からの情報伝達は一方的で、変わっていく価値観は現場に浸透しません。明らかなコミュニケーション不足で社内には重苦しい空気が漂い、開発のスピードも鈍化。こうした状況に価値を見いだせなくなり、創業時から携わってきたメンバーにも自ら会社を離れる人が出てきます。

事業拡大を助ける柔軟な組織作り

ここまで見てきた問題は2つとも、拡大期の企業にとって起こりがちなものです。そしてどちらの場合も、変わる状況に組織が柔軟に対応できず起きた問題だと言えるでしょう。

では組織に柔軟性があったら、こうした状況にどのように対処できていたでしょうか。

ジョブ型採用で必要なスキルを必要なときに

たとえば、Formlabs が直面したような採用の問題には、「メンバー採用」ありきではなく「必要なスキルを採用する」というジョブ型の考え方が解決に役立つでしょう。

メンバーシップ型の採用だと、ミスマッチだった場合への対応には大きな労力がかかります。一方、ジョブ型の視点でプロジェクトやタスクごとに採用すれば、必要なときに必要なスキルが手に入ります。もともと知り合いかどうかに関わらず、実際の仕事を通して能力や適性を見極めることもできます。

ぴったりな人材だとわかれば、そこで長期的な話を進められる一方、ミスマッチなら新たな人材を探すことも可能。つまり、組織に必要なスキルを必要なタイミングで採り入れながら組織を拡大できるのです。

変わるビジョンを共有し一緒に立ち向かえる関係作りを

次に、MakerBot のように激変する環境で足並みを揃えるために大事なのは、組織のハード面(人員配置や組織設計など)の変更に合わせ、組織のソフト面(コミュニケーションやモチベーション強化など)にも十分な配慮を行うことです。

スタートアップにとって変化は日常でも、一方的な伝達ばかりで異論を認めない空気が支配する状況では、モチベーションを保つことはできません。ともに変化に立ち向かえる関係を築くためには、変わりゆくビジョンを常に共有し続け、理解を促すためのオープンなやり取りも求められるでしょう。

難しい決断であるほどしっかりとコミュニケーションをとり、問題は小さいうちに話し合える環境が柔軟な組織作りを促し、事業拡大を支えるはずです。

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悲喜こもごも 目が離せないスタートアップの現実

Netflix『プリント・ザ・レジェンド』は喜びから苦しみまで、スタートアップや新規事業に携わる人のさまざまな表情を捉え、目が離せない展開が続きます。

娯楽として楽しみながら、似た状況にいる人にはきっと他人事とは思えない共感や気づきが得られる作品です。

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