
【フリーランスの仕事術】海外ノマド年100日!「緻密な戦略」で柔軟な働き方を実現
時間や場所にとらわれずに働けるのは、フリーランスの大きな魅力です。しかし、実際に海外や離島など普段とは異なる場所で仕事をしてみると、「作業に集中できない」「取引先とのやり取りがスムーズにいかない」など、理想とのギャップに戸惑う人も少なくありません。
また、自宅以外で働き続けるには、資金の確保や取引先の理解など、いくつもの条件をクリアする必要があります。実際にノマドワークを続ける人は、それらの壁をどのように乗り越えているのでしょうか?
そこで話を聞いたのは、年間100日以上は兵庫県の自宅以外で働く五嶋伸敏さんです。「ノマドワークを続けるために、あえて日本にマンションを購入した」と語る五嶋さん。この一見矛盾するようにも思える選択の背景には、どんな環境でも成果を出せる綿密な計画性と、明確な目標に基づくキャリア戦略がありました。
五嶋さんのノマドワーク歴
🎙五嶋伸敏さん (プロジェクトマネージャー/ウェブデベロッパー)
大学卒業後、生命保険のシステム子会社や複数のウェブ制作会社で、プロジェクトリーダー兼フルスタックエンジニアとしてシステム開発案件を推進。その後、大手機器メーカーにて BtoB デジタルマーケティングの企画・実行、CRM/SFA 関連システムの導入・運用、新規事業部門におけるデジタルマーケティングやインサイドセールス立ち上げのプロジェクトマネージメントを担う。2023年よりフリーのコンサルタントとして活動開始。CRM/SFA、AI、BtoB デジタルマーケティング、インサイドセールス、新規事業マーケティングなどの領域のプロジェクトマネジメントが強み。
https://www.sollective.jp/freelancer/Noby510

1. 週の6〜7割稼働でも生活が成り立つ案件を選ぶ
IT を軸にキャリアを積んできた五嶋さんは、会社員時代から海外で働く道を模索してきました。しかし、海外勤務にはキャリアチェンジが伴うため、フリーランスへの転身を決意。移住を見据え、独立1年目から海外を中心に8か所でノマドワークを行います。
「20代の頃から、多様なコラボレーションを通じて独自の世界観を築いた坂本龍一さんに憧れていて…僕もいろんな環境に身を置き、IT の専門性を活かしてさまざまなプロフェッショナルたちと働きたいと思ったんです」
ノマドワーカーとして働くにあたり、五嶋さんが優先するのは「週の6〜7割稼働でも生活が成り立つ」案件です。ノマド生活は当然コストがかさみますが、「収入を上げるためにフル稼動してしまっては、ノマドワークをする意味がない」といいます。
「同業者の交流会に参加したり、語学学校に通ったりと、その土地ならではの体験を楽しむ時間を取れないと、自宅で仕事をしているのと変わりません」
案件選びに役立つのが、作業ログの記録です。稼働時間による成果を把握することで、必要な受注量と単価が明確になるため、それをもとにノマド生活に必要な最低報酬額を設定するそうです。
ノマドワークをスムーズに実現するには、関わる人数も重要です。五嶋さんが探すのは、主にメンバーが10人以下のプロジェクト。「特にステークホルダーが多いプロジェクトのリーダーになると、連絡や調整ごとが頻繁に発生します。迷惑をかけないためにも、密なコミュニケーションが必要なメンバーは3〜4人が理想です」

五嶋さんがノマドワークに出かける際の荷物一式
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2. 柔軟な働き方を「応援してもらえる」関係を作る
主にフリーランス向けプラットフォームなどエージェントを通じて案件を獲得している五嶋さんですが、こうした条件を提示しても仕事が途切れることはありません。それは、専門性と幅広い対応力を併せ持つ「T 字型キャリア」を意識して仕事に取り組んできたからです。
「IT スキルを磨きながら、あらゆる業界や規模のプロジェクトに積極的にチャレンジしてきました。案件獲得では実績と経験が重視されるので、対応領域を広げることで選択できるプロジェクトが増えていったんです。滞在先によっては物価が高いこともあるため、正直、安定して稼ぎ続けられないとノマド生活は厳しいと感じています」。
五嶋さんによると、海外ノマドワークができる案件を継続的に獲得するポイントは、エージェントと取引先の双方から「応援してもらえる関係を築くこと」だといいます。
「単に『ノマドワークをしたい』と希望をそのまま伝えるよりも、海外で起業したいので移住を検討している、というように人生の目標や背景を共有した方がより理解を得られると思います」
加えて、五嶋さんは最初から応援を求めるのではなく、「まずは信頼を得ることが大事」と強調。「専門外の領域でも取引先の困りごとを率先して解決するなど、最初の3か月で信頼と実績を重ねたうえで、契約更新時に海外ノマドワークが可能かどうかを相談しています」。
たとえノマドワークが一時的な期間でも、「もしも PC が盗難にあったら」「連絡手段が途絶えたら」…など、想定できるあらゆるリスク対策を事前に準備。万が一に備えて、作業拠点の近くに取引先企業のオフィスがあるかどうかも確認したこともあるそうです。
「緊急時の対応策も信頼もないなら、同じスキルを持つ在宅フリーランスの方を選ぶのが、企業側の本音じゃないでしょうか」

マレーシアのマンションに設置したワークステーション
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3. 「適応力」と「拠点」で心の安定を確保する
当然ながら、どんな環境でも一定の品質を保てなければ仕事の継続依頼は望めません。
そのため、五嶋さんはノマドワークで最も重要なスキルを「適応力」だと断言。「本来は繊細な気質」というものの、経験を重ねるうちにどこでも働ける適応力が身についていったそうです。
「現地では、食事の調達やネット環境の確保など、普段以上に気を配ることが多いんです。さらに、隣室の騒音や、机と椅子が体に合わず腰痛が悪化するなど、予期せぬ問題も次々と起こる。そうした状況に適応しながら、仕事のスケジュールを柔軟に調整する必要があります。
その点では、旅慣れた人ほどノマドの適性があるとも言えるでしょう。そもそも旅行すらあまり行っていないという人は、まずは近場で2〜3泊から試してみてもよいかもしれませんね」
適応力があれば人間関係にもスムーズに溶け込みやすくなるため、ノマドワークで孤立するリスクも下がるかもしれません。
「やはり好きな場所であっても、1人で仕事を進めていると孤独を感じたり、関係者とのオンライン上でのやりとりにフラストレーションを感じたりするときも。そこで、現地で開かれる IT の勉強会やイベント、SNS 上のビジネスパーソン向けコミュニティに加わるなど、積極的に人との交流の機会を作っています」
孤独感やフラストレーションを和らげるために、五嶋さんは月に1度のオンラインカウンセリングも活用。そのときに感じていることをざっくばらんに話すことが「自分のメンタル状態のチェックになる」といいます。
そしてもうひとつ、心の安定につながったのが、日本でのマンション購入です。
「ノマド生活を始めた当初、実は気持ちがずっと安定しませんでした。そこで、日本での拠点を定めれば、それを基盤に将来の計画を立てやすくなるんじゃないかと考えたんです。もちろんローンはありますが、資産にもなる。結果的に、どこへ行っても帰る場所があるという安心感につながり、チャレンジを恐れなくなりました」

オーストラリアでは、メルボルン図書館(左)やシドニー大学(右)でノマドワーク
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核となるスキルがあれば、どこでだって働ける
フリーランス2年目に地元にマンションを購入し、同じタイミングで法人を設立した五嶋さん。つい最近、東京にも部屋を借りて「拠点」を増やしました。3年目を迎える今年、「1年目の身軽さと、2年目の地盤固めをうまくハイブリッドさせた働き方をし、ゆくゆくは海外拠点も作りたい」という思いを抱いています。
「ただ、法人を大きくすると検討すべきことや管理すべきもの、いわゆる資産が増えますよね。マンションのローンもあるなかで維持コストが増え、フットワークの軽さを保つのが難しくなるのが課題です。そこで、労働集約型ではないビジネスモデルも検討しています」
その先に見据えるのは、「IT 業界における坂本龍一さんのような存在になる」こと。そのために、「もっと海外の人たちとアイデアやリソースを共有するコラボレーションも経験していきたい」と挑戦は尽きません。
五嶋さんにとって、ノマドワークはあくまでも人生の目標を叶えるための手段。ノマドという響きからは「自由で柔軟」というイメージを持たれがちですが、実際は目標に向けて綿密な計画を立て、着実に実践しているからこそ、仕事が途切れずノマド生活を続けられるのでしょう。
「もし滞在先が合わなければ、拠点である自宅に戻ればいいんです。同様に核となるスキルがあれば、仮にひとつの仕事がうまくいかなくても、そのスキルを別の形で活かして軌道修正できる。一度身につけたスキルは失われないので違う分野でも応用できるはず。そう考えれば、環境の変化もそこまで怖くありません。
僕もそうですが、企業に勤めた経験がある人は、緻密に仕事を進める土台があると思うんです。基盤がしっかりしているから、細部まで気を配り、長期的な視点で計画を立てられる。だから安定した環境にいた人こそ、ノマドワークに挑戦してほしいですね」。
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Writer / Shinobu Takayama
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Editor / Yuna Park
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