弁護士に聞く!フリーランスの契約の悩み Q&A
フリーランスが安心して働くために、契約内容の確認は欠かせないステップの1つです。しかし法律の専門家ではない個人として問題点に気づけるか、また問題が起こったときに適切な対応できるかと不安な人も多いのではないでしょうか。
Sollective は、そんな契約の悩みや相談がある方のためのイベント「フリーランス必見! 契約書の落とし穴と対策法」を Impact HUB Tokyo で開催。当日は参加者が契約にまつわる不安を共有し、弁護士法人 GVA 法律事務所の箕輪弁護士に対策や対処法を聞きました。
契約書は問題発生時のリスク回避のために重要
イベントでまず話題に上ったのは「そもそも契約書は必須なのか」という疑問。箕輪弁護士によると、実際に契約書がないまま仕事が進むケースは少なくないといいます。
「そもそも契約は口頭でも契約は成立しますが、契約書は案件ごとに作るのが理想的です。というのも、問題があるときに『契約書に書いてあるからこのように処理しましょう』と交渉の前提にできるからです。つまり、契約書はトラブルになったときに初めて生きるのです」
もし契約書なしで進める場合は、最低限のリスク回避として記録に残すため、メールなどで契約条件を共有しておくとよいそうです。
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確認必須!特に大事な項目は損害賠償と知的財産権
では次に、実際に契約書を確認するときの注意点を見てみましょう。いざ契約書にサインする段階でも、役務内容や納品物の定義、支払い内容などの基本的な項目以外はどこに気をつけるべきかわからない人も多いはず。箕輪弁護士によると、特に重要なのは損害賠償と知的財産権。そのポイントをまとめると次のとおりです。
1. 損害賠償
損害賠償の項目では、賠償の範囲や金額が適切かの確認が大事です。ここに裁判費用や将来的に発生し得る一切の損害の賠償まで請求されると書かれている場合、大きなリスクを負うことになりかねません。内容が現実的でない場合には、条項の修正を求めるとよいでしょう。「直接発生した損害に限る」との文言を入れたり、賠償金額の上限を受託した報酬金額にしたりするのも一案です。
2. 知的財産権
知的財産権で大切なのは、知的財産に当たる部分を明確にし、不利になる部分はしっかり交渉すること。たとえばプログラミングの案件で納品物の著作権をすべて相手企業に渡す場合、他社の似た案件で同じソースコードを使用できるのか疑義が生じてしまいます。そのため、契約書には『汎用的な部分はこちらに留保する』などの文言を入れるのが非常に重要です。
不利にならないよう契約書は自分で用意するのがおすすめ
上記を踏まえ、自分にとって不利な契約にならないためにも契約書は自分で準備するのが理想的。雛形やベースになるものを持っておくと便利です。オンラインでもさまざまな契約書の雛形が見つかりますが、弁護士監修のものならより安心して使えます。ただし、流通している雛形を使用する場合、業務内容や納品の流れなど契約書の内容が自分の取引と整合しているかしっかり確認することが大事です。
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フリーランスの契約の悩みあるある Q&A
イベントでは、フリーランスから契約に関するさまざまな悩みが共有されました。ここからは、当日寄せられた相談内容と箕輪弁護士の回答を可能な限り紹介します。
Q:プロジェクト進行中に納品物が変更に。どう対応する?
相談:映像制作の案件で、納品後に「方向性が変わったので変更してもらえますか」との相談がありました。取引先との関係性を考えて対応しましたが、追加の作業になり、納期の延期に伴い支払いも遅くなりました。契約書には納期や納品物の定義が明記されていましたが、どう対応すればよかったのでしょうか?
箕輪弁護士:企業からの追加の要求に応えてタダ働きになってしまうのはよく聞くお悩みです。こうした状況で交渉の前提とするために契約書はあります。この場合、契約書に記載のない追加の作業には新たな費用の見積もりが必要だと伝えるとよいでしょう。
Q:削除できるチャットツール上でも契約は成立する?
相談:メッセージを削除できるチャットツール上でも契約は成立するのでしょうか?
箕輪弁護士:チャットツール上での合意でも契約は成立します。しかし、記録という点では心もとないので、関連箇所のスクリーンショットを取っておくと安心です。もちろん、案件ごとに契約書を作成するのが理想です。
Q:契約書に「ノウハウ持ち出しで損害賠償が発生」との記載が。気をつける点は?
相談:取引先の契約書に「弊社のノウハウを持ち出した場合は損害賠償を請求する」と、具体的な金額とともに書かれていました。気がかりでしたが、関係性を考えてそのまま契約を結んでしまい、今後何らかの指摘を受けたらとヒヤヒヤしています。どのような対応が適切だったのでしょうか?
箕輪弁護士:取引先との関係を考えて悩むとは思いますが、交渉をすることが理想的です。たとえば「ノウハウを持ち出す」の線引きがわからず不安だと伝え、明確にするよう依頼してみる。先方が対応できない場合は、条項を外すよう交渉するとよいでしょう。
すでにその内容で締結してしまった場合でも、企業が損害賠償を請求するには「ノウハウの持ち出し」を立証しなければなりません。ですので、そうした痕跡などが残っていなければ基本的には安心して大丈夫だと思います。取引先のデータや関連する履歴が手元に残っている場合には、万が一を考えて削除しておきましょう。また、その企業でしか知り得ない情報などをほかの企業との案件で使用しないように留意してください。
Q:契約書の雛形レビューに ChatGPT を使っても問題ない?
相談:自分で作成した契約書の雛形が現実的に使えるものかを確認したいとき、ChatGPT などの生成 AI を使ってレビューしても問題ないでしょうか?
箕輪弁護士:文言の体裁を整えるうえで AI ツールは役立つかもしれませんが、生成 AI が契約書に適切な文言を作れるかはわからないため、やはり弁護士の専門的な確認を入れることが望ましいです。また契約内容をすべて AI ツールに入力すると秘密保持義務違反や個人情報保護法違反などのおそれがあるので、秘密情報や固有名詞を伏せるなどの配慮が必要です。
契約の不安を解消し、安心して働くために
イベントで共有された契約の悩みには、職種を問わず共感できる内容も多いのではないでしょうか。当日は箕輪弁護士の具体的な回答でそれぞれへの対処法が明らかになり、実践に役立つ知識を得られる充実したイベントとなりました。今後契約を結ぶときや、契約内容で不安がある場合にはぜひ上記の内容を参考にしてみましょう。
この Q&A で悩みが解決できなかった場合には、「フリーランス・トラブル110番」や「下請かけこみ寺」「よろず支援拠点」など無料相談を受けつけている機関に相談するのもおすすめです。また、自身で契約書を作成しようと考えている場合には無料で使える弁護士監修の契約書作成サポートツールも活用してみてください。専門家の助けを借りながら契約の不安を解消し、安心して働ける環境を整えていきましょう。