フリーランスに契約書が必要な理由と確認ポイントを一挙解説
大好評の「フリーランスの経理入門」シリーズ、第1回ではフリーランス1年目と2年目で押さえるべき年間スケジュール、第2回は開業に必要な3ステップを取り上げました。
第3回は、いよいよ開業した皆さんが初仕事を始めるための「契約書」がテーマです。
フリーランスの仕事に契約書が必須かというと、実はそうではありません。実際に、連合が2023年1月に公開した調査によると、仕事を受注するときにいつも契約書を締結すると回答したフリーランスはわずか23.8%。4分の3以上のフリーランスが、契約書なしに仕事を始めることがあるとわかりました。
しかし、口約束だけで仕事を始めてしまうと、あとから「言った言わない」で揉める可能性も。また、たとえ契約書を交わしていても、内容が曖昧では支払いや業務範囲をめぐってトラブルになるケースも考えられます。だからこそ、必要な事項を書面で合意することが大切なのです。
今回は、そんな契約書の基本を学びましょう!
契約書はフリーランスの身を守るため&事業実態を示すために必要
契約書がなぜ必要か、それはいざというときに自分を守る証拠になるからです。
たとえば「10万円でこの仕事をお願いします」と口頭で依頼されたとしましょう。この場合、その「10万円」と「この仕事」について詳細を取り決めて認識をすり合わせておかなければ、次のような認識の齟齬やトラブルが起こってしまうかもしれません。
こうしたポイントを事前にすり合わせておくメリットは、取引先との摩擦を最小限に抑えるだけではありません。契約内容が明確であればあるほど売上やスケジュールを見積もりやすくなるため、事業の運営がスムーズになるのです。
さらに税務署や都道府県税事務所、またビジネス用の口座を開く際などに銀行から契約書の提出を求められる場合もあります。つまり、契約書はビジネスの実態を示す資料にもなるのです。
想定外の事態に対処するため、そして事業実態を示すためにも、契約書は必ず作るようにしましょう。
取引先が作った契約書、見るべきポイントはおおまかに5つ
取引先に契約書の作成をお願いしても、提示された内容のどこをどう見ればよいかわからない人もいるでしょう。しかし、見るべき観点は実にシンプル。「こちらの意向が反映されているか」「こちらの不利になる項目がないかどうか」です。具体的に見ていきましょう。
①契約の種類
まず確認したいのは、契約のベースになるのは「成果物」なのか「労働時間」なのかという点です。実はそれによって、契約の種類が変わります。
本来、準委任契約であるべきものを請負契約としてしまうと、割に合わない時給額で仕事をしてしまう事態に陥りかねません。一方的に決められないよう、契約の種類をしっかりチェックしましょう。
②業務範囲
ここで定める内容は、「今回の契約で行うと約束すること」です。そのため、文言は「〇〇に付随する業務一式」などの抽象的な表現ではなく、できるだけ具体化した方がよいでしょう。
納品物がある場合は、納品物に加えてその形態、納品に至るまでのプロセスも大切です。特に、提出物の種類、修正の回数、会議出席の有無、コミュニケーション方法などは明確にしておきましょう。
こうすれば、決めた回数を超える修正や雑用、業務範囲外の依頼に対する抑止力となるだけでなく、業務範囲を越える依頼に対して追加契約を提案する根拠にもなります。
③報酬・支払い条件・損害賠償条件
大切なお金まわりでは、次の点を確認しましょう。
また経費が発生する際の取り決めもあるとよいでしょう。特に取引先訪問や取材などで外出が発生する場合や資料や資材を購入する場合は要確認です。
ほかにも見落としがちなのが損害賠償の条件です。一般的には、既に支払われた金額を上限とするケースが多いものの、なかには企業が被った損害をフリーランスがすべて負担すると書かれている場合もあります。うっかり見落として不利な条件で合意しないようにしてください。
💡関連記事:弁護士に聞く!フリーランスが直面しがちな契約の悩み Q&A
④契約解除の条件・競業禁止の規定
契約解除の項目では、双方が同じ条件になっていることを確認しましょう。まれに取引先は1か月前に解除できるのに、フリーランスは3か月前など不利な条件を提示されるケースもあるので注意が必要です。
また、契約解除後も一定期間は競業避止義務を負うと明記される場合もあります。これは、その期間はその企業の競合にあたる企業と取引してはいけないという規定です。なかには2年以上の長期にわたって定めているケースや、競合となる分野が幅広く指定されているケースもあります。今後の自分のビジネスに影響が出ないかどうかしっかり検討しましょう。
⑤知的財産、パブリシティ
制作物を納品する契約の場合は、知的財産の帰属について確認が必要です。特に契約が解除になった場合など納品まで至らなかった場合、制作物の著作権がどちらにあるのかは事前に確認しておきましょう。
また、パブリシティで注意したいのが SNS での共有やオンラインのポートフォリオへの掲載です。取引先との仕事をフリーランスが公表してはいけないと定められている場合は、それらの行為が契約違反に当たります。十分注意してください。
口約束だけで仕事を始めている場合は「外部要因で必要になった」と伝える
すでに口約束で進めていたり、これまで契約書なしで仕事をしていたりする場合、改めて契約書を作ってほしいとは言いづらいかもしれません。そんなときは、次に挙げるように外部要因で必要になったと伝えるとスムーズです。
取引先に「契約書を作成した前例がない」と言われた場合は、自分で作成しましょう。『契ラク® by Sollective』は弁護士監修のテンプレートで、ポイントを網羅した契約書を簡単に作ることができます。
トラブルになりそうなときは専門機関やコミュニティで相談を
今回紹介したポイントを押さえた契約書を交わせば、トラブルをある程度は避けられるでしょう。とはいえ100%安全かというとそうではなく、取引先が契約内容を守らないケースもまれにあるようです。そんなときに「契約書と内容が異なる」と正面切って抗議できるとよいのですが、仕事を受けている身としては抗議しづらく、結局はうやむやにしてしまう人もいるようです。
もし契約について迷ったり困ったりしているときは、「フリーランス・トラブル110番」や「下請かけこみ寺」「よろず支援拠点」など無料で相談できる機関に相談してみましょう。
また、フリーランス向けコミュニティで相談してみるのもよいでしょう。ほかのフリーランスだったらどうするかなど相談すれば、次の手が見えてくるかもしれません。
「フリーランスの経理入門」シリーズ、次回は経理業務のポイントを取り上げます。