Netflix「ビリオンダラー・コード」- Google 相手に訴訟を起こしたベンチャー企業のドキュメンタリーから、私たちが学べること - 岩井エリカの視点
映画やドラマの中にも、ビジネスパーソンにとっての学びや教訓が詰まっているもの。楽しみながら学びにもつながるので、私も Netflix のドキュメンタリーなどは好きでよく息抜きがてら見ています。
その中でも、ぜひビジネスパーソンにおすすめしたい英語の映画やドラマをピックアップして紹介していければと思います。
今回は、Netflix ドラマ「ビリオンダラー・コード」を紹介していきます。
Google 相手に訴訟を起こす!? 「ビリオンダラー・コード」
Netflix ドラマ「ビリオンダラー・コード」は、地球上のどこにでもデジタル上で行くことができる Terravision(テラビジョン)というシステムを開発したベンチャー企業 ART+COM のオーナーであるふたりのドイツ人が Google Earth のアルゴリズムの発明者としての権利を主張し、Google を相手に訴訟を起こす、実話をもとにした物語です。
Terravision の開発は、1990年代にベルリンでふたりの若者が出会うことから始まります。開発者は、デジタルアートを作りたいと切望するアーティスト Carsten Schlüter と、エンジニアの Juri Müller。想像力溢れるアーティストと、アートを具現化する技術を持ったエンジニアが出会ったことで、当時では不可能と考えられていたアイディアを形にしていきます。
Google Earth のリリース年が2005年ですが、Terravision はそれよりもずっと前に開発されていたというから驚きです。
そして2014年、ドイツのソフトウェアカンパニー ART+COM は、Google が Google Earth の製作にあたり彼らの製品である Terravision のアルゴリズムを盗用したとして特許侵害で訴えました。
ドラマシリーズは、訴訟でピリピリとした空気の流れる2010年代と、夢見る若者が出会い、不可能を可能へと変えるために突き進んでいく姿が描かれる1990年代初頭とを行ったり来たりすることでストーリーが展開され、その全貌が徐々に明らかになっていきます。
Facebook 創業者マーク・ザッカーバーグの視点から描かれた映画「ソーシャルネットワーク」をはじめとして、成功者に焦点を当てた映画は多くあります。ですがこのドラマは、敗者かもしれないけれど思わず応援したくなるような人にスポットをあてて描かれている珍しいストーリーであることも注目ポイントのひとつです。
「ビジネスが成功すること」とはどういうことなのかを考えさせられる
このドラマの見所のひとつが、会社設立や新しいテクノロジーを構築するにあたって、創設者が確信とともに苦悩を抱えている姿です。
いちから何かを始めるということの、楽しさと苦労は同時にやってきます。やはり、何か大きなことを成し遂げるのは、一筋縄ではいかない。けれど、強いビジョンを持ち、決して諦めなければ、達成できるということを、このドラマは教えてくれているとも感じるのです。
また、時代の先を行くこと、そしてその立場を維持し続けることがどれほど重要なことなのかも教えてくれます。 Terravision は当時不可能だとされたことを成し遂げ、Google Earth はその10年後に発表されました。
そこから見えてくるのは、ポジションをとり続けるための戦略がないのであれば、一番最初に優れた商品を開発しても業界をリードしていくのは難しいということです。そう、ART+COM は優れた最新技術を開発しましたが、それはビジネスの成功とイコールではありませんでした。
彼らが成功するためには、その技術がより大きく発展しマーケットの中で生き残っていくためのビジネスモデルを構築し、改善し続ける必要がありました。ビジネスにおいて、企業が時代を先取りしていくためには、その舵取りをする人間もまた、時代を先読みしていく力が必要になるのです。
とはいえ、ビジネスの勝者・敗者という視点ではなく、もっと大きな視点で見ると、やはり主人公のふたりのビジョンは美しいとも思います。ふたりは、これまでにないことをしたい、全く別の世界を見たいと思っていました。それは、利益を目的としたものではありませんでした。
グラフィックの問題を解決することから始まり、徐々に成長し、 Terravision を使用することで、人々がどこにいても、世界中の地域に関する情報にアクセスすることができるようになっていきます。ふたりのビジョンは、人々が長い間必要としてきたであろう電話帳なんて必要ないような、そんな世界だったのです。
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ドラマから垣間見える、アメリカのスタートアップやビジネス事情
また、このドラマで興味深いのが、シリコンバレーやスタートアップの世界でどんな風にビジネスが運営されているのかを垣間見ることができること。インターネットがビジネス環境をどう大きく変えたのか、そしてこれからも変えていくのかを見ることができるのも興味深いポイントです。
訴訟に関するストーリーということもあり、アメリカの法律制度(慣習法)について触れることもできます。
アメリカでは、日本の民法と違って、判決は陪審員によって決められます。弁護士がリードする形で訴訟が行われ、立証責任は訴訟を起こした側にあるのです。開発者でもない陪審員を前に、この事例を証明するのは至難の技。 Terravision が雇った弁護団も、ソースコードの専門知識がなく、や Google Earth がどのように特許侵害をしているかといった議論に持ち込むことに失敗しているのです。
アメリカの法律制度の中では、もし自分が正しかったとしても、裁判に勝利し、主張の公平性を勝ち取れる訳ではない、ということも教えてくれます。
そしてここからは、ストーリーにおいて重要なネタバレになってしまいますが……そもそも ART+COM がこの危機に陥ったのは、ある人物がシリコンバレーの仲間にプロジェクトの重要な秘密を漏らしてしまったのが原因です。たとえ憧れの人に出会えたとしても慎重に、大切な秘密はプロジェクト内に留めておくこと。当たり前のように思えることではありますが、改めて心に刻みたいことです。
ドラマでは、彼らは自分たちのサービスのアルゴリズムを盗用され、苦しい戦いをしていくことになります。それでも、人生というのは続いていきます。
もし一度素晴らしいものを生み出すことができたなら、それが失敗に終わったり、このドラマのように誰かに盗まれてしまうという最悪の事態に陥ったりしても、またきっと素晴らしいものを生み出すことができる、その力を持っているのです。
ドラマの登場人物の生き様を見ながら思ったのは、「過去にしがみついて苦しい気持ちで生きていくのか、それとも前を向いて新しい人生を進めるのか」……それも人生の選択だなあと感じました。
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